二十五 感電死
文字数 4,365文字
奥山館本館北側一階から従業員用階段を下りると半地下一階に西へ延びる通路途中右手(北側)に倉庫がある。倉庫の向い側には食糧貯蔵庫のドアがある。通路をまっすぐ進めば半地下の駐車場へ出るドアに突きあたる。
佐伯は半地下一階の倉庫で高須客室係から、福原富代が死亡したと聞かされ、福原富代の死亡状況と、高須客室係と奥山支配人が悲鳴を聞いた時、二人がどこで何をしていたか確認した。奥山支配人はフロントにいて。高須客室係は休憩室にいた。
「それでは、庭の現場を立ち入り禁止にして現場保存してください。
ここも現場保存します。客には動きまわらずに自室にいるように、従業員にはその場にいるように伝えてください。
シートを持っていってください」
「わかりました」
高須客室係が、倉庫の右にある棚からブルーの防水シートを持っていった。
ただちに佐伯は地元警察署と県警本部に、関口虎雄と福原富代の死亡を連絡した。
連絡を終えた佐伯は山本刑事に指示して全員に防塵カバーを履かせ、関口虎雄の右手そばにある電源ケーブルを示した。ケーブルのプラグはスイッチボックスのコンセントに接続されたままだ。スイッチボックスのスイッチレバーは下がりスイッチオフになっている。
「この電源ケーブルは、なぜこの状態なんですか?」と佐伯。
関口虎雄はコンクリートの床にうつぶせに倒れたまま息絶えている。関口虎雄の右手そばに、三本の銅線が剥きだしになった動力用三相交流電源ケーブルが、鎌首をもたげた蛇のように立ちあがっており、右手は握った花火が手の中で爆発したように、茶と黄と黒の妙な色に変色していた。作業ズボンのポケットの携帯電話は何も表示していなかった。
「わかりません。あのケーブルは旋盤に繋がっていた電源ケーブルだと思います。
旋盤のケーブルがありませんから・・・」
佐伯たちと真理たちを案内した村田客室係は、緊張した顔で倉庫の壁際の旋盤を示した。
倉庫に入った右手の壁に棚があり、正面の壁の前に旋盤やボール盤など工作機械が並んでいる。配電盤は右隅の壁の棚の左側にある。
ここ奥山温泉は市街地から離れている。簡単な水道工事や温泉の配管工事ができるよう、それなりの工作機械がそろっている。配管工事の資格を持っている安藤副支配人が倉庫内の工作機械を管理していると村田客室係は説明した。
「誰でもここに出入りできるんですか?」と真理。
「ふだんはこの倉庫に鍵はしてません。誰でも入れます。
今回の撮影のため、倉庫とこの通路から駐車場へ出るドアの鍵は、関口虎雄さんに渡してありました。撮影機材を車から倉庫に運んで整備するというので・・・。
いつも駐車場のドアは鍵をかけてます。今も鍵がかかったままです」
村田客室係は真理にそう答えた。
「この倉庫に来るには、従業員用階段からと、駐車場からと、あのドアからですね?
あのドアの先は調理場の真下だから、食糧貯蔵庫ですか?」
佐伯は倉庫の向い側にあるドアを示した。
関口虎雄が倒れているこの倉庫は駐車場の北東側にある。倉庫の向い側にあるドアの向こうは駐車場の東側で一階調理場の真下だ。さらにその先は一階事務所の真下だ。
「ええ、食材貯蔵庫です。今、あのドアに鍵がかかってます。調理場から階段で、直接、食材貯蔵庫に下りられます。食材貯蔵庫には駐車場からも行けます。
食材貯蔵庫の南は事務所の真下で、あそこは事務所関係の倉庫です。事務所内の階段と駐車場のドアから行けます」
佐伯が示したドアの向こうは調理場の真下で階調理場から階段を使って下りられる。生鮮野菜などの冷蔵保管棚と食材用の冷蔵庫と冷凍庫がある貯蔵庫だ。駐車場の東側にあり、日頃は直接、駐車場側のドアから食材を搬入して廃品を排出するため、佐伯が示した倉庫側のドアは使われていない。しかし、調理場から食材貯蔵庫へ下りてこの通路のドアを通り、直接倉庫に来るのは可能だ。調理場から食材貯蔵庫を経て駐車場をまわり、駐車場から倉庫に来るのも可能だ。
佐伯はもう一度確認した。
「この倉庫に来る経路は、私たちが来た従業員用階段と、調理場から食材貯蔵庫へ階段を下りてあのドアを通るのと、駐車場からですね?」と佐伯。
「はい、そうです」
佐伯は倉庫に至る三通りの経路を何度も確認している。
真理は倉庫に至る経路の一つ、本館から駐車場へ行って倉庫へ入る経路を考えた。
本館から駐車場へ行く経路は、
奥山館の正面玄関横にある駐車場へ下りる階段、
正面玄関横に併設する車用の通路、
フロント横から駐車場へ下りる、五階までつづいた客用の階段、
これら三つを使う場合と、
事務所から階段で地下倉庫に下り、そこからドアを開けて駐車場へ出る、
調理場から食糧食糧貯蔵庫へ下りて、ドアを開けて駐車場へ出る、
の二つだ。
客が駐車場へ行くには必ず一階ロビーのフロント前を通る。フロントは利用客を見逃さない。となれば、事務所の倉庫を経由するか、食糧貯蔵庫を経由するかだ・・・。
「秋山事務所は、いつから倉庫を使ってるんですか?」
真理は村田客室係を見た。佐伯は、真理に何か忠告しそうな山本刑事を身ぶりで制した。
以前、事件解決に協力した真理たち新聞記者が、刑事とは異なる視点で事件を捉えていたのを佐伯は自覚している。
「今月五日から宿泊して、機材を倉庫に入れたのは五日です。
充電する機材や、発電機の整備を確認をしたいといってました・・・」
村田客室係は関口虎雄に視線を移して、沈んだ声で説明した。
八月五日午後。
関口虎雄はフロントの許可を得て、駐車場から撮影機材を倉庫へ搬入し、倉庫のドアと、駐車場へのドアを半地下の通路側から施錠した。
その後は、機材搬出と搬入時に倉庫と駐車場のドアを開錠して施錠した。
機材搬入後は駐車場と倉庫のドアを施錠し、機材整備に、従業員用の階段を使って倉庫へ行き、機材整備時だけ倉庫のドアを開錠して、整備を終ると施錠していた。
秋山事務所の秋山秀一は、撮影機材の管理を全面的に関口虎雄に任せていたため、奥山館の従業員を除けば、倉庫の出入りは関口虎雄しか許されていなかった。
悲鳴を聞いて私たちと伯父さんたちが、村田客室係に案内されて倉庫に来た時、倉庫のドアは開いていた・・・。他の宿泊客が倉庫に出入りしなかったとは断言はできない・・・。関口虎雄が死亡した時、ここに誰かいたのだろうか?伯父さんはどう考えているだろう・・・。真理が佐伯を見ると、佐伯は佐介に現場の撮影を指示した。
「さて、佐介さん。撮影してください・・・」
真理は佐伯のまなざしが佐介に、『事故死ではないですよ』と語っている気がした。
自殺なら、関口虎雄が、プラグが差しこまれた電源ケーブルの剥きだしになった銅線を握ったまま自分で配電盤のスイッチを入れ、電源コンセントがあるスイッチボックスのスイッチレバーを上げてスイッチオンにした事になる。あるいは、スイッチをオンにした状態で、ケーブルから剥きだした銅線を握った事になる。
だが、悲鳴を聞いて、私たちが駆けつけた時、関口虎雄は倉庫のほぼ中央の撮影機材の近くに倒れていた。配電盤のスイッチはオンになっていて、スイッチボックスのスイッチレバーは下がりスイッチオフになっていた。
明らかに、関口虎雄が感電死した時、誰かがここにいてスイッチレバーを下げてスイッチオフにした。これは殺人事件だ・・・。真理はそう思いながら現場撮影する佐介に付き添い、倒れている関口虎雄の身体の向きや服装、身体の付着物、床にある異物など気がつく限りをメモした。
佐伯と山本刑事は現場をくまなく調べてメモした。
「ここの鍵と駐車場のドアの鍵はあれですね」
佐伯は村田客室係に、作業テーブルのキーホルダーを示した。
「ええそうです。あのキーホルダーはフロントにあった予備の物です」
「山本刑事。この現場は、本部の連中が来るまで、このままにします。
佐介さんが写真を撮り終ったら、ここを立ち入り禁止にしてください」
佐伯は作業テーブルのキーホルダーを示し、
「指紋の照合があるから、指紋を付けないように、消さないように保管してください。
あとで、関口虎雄さんの私物を押収してください」
と指示した。
「了解しました・・・」
そう答えた山本刑事から、何も手がかりが見つからずに困っている気配が漂っている。
只野巡査は倉庫の入口に控えたまま何も話さない。
「サスケ。スイッチボックスと配電盤と、旋盤の電源コード接続部も撮ったか?」
「考えられる所は全て撮ったよ。
佐伯さんたちが気になる所はありませんか?」
「ありません・・・」
伯父さんも手がかりが無くて困惑してる・・・。伯父さんたちは、サスケが撮影する箇所を確認してたが、何も指示しなかった。サスケの撮影に手抜かりはない・・・。何も手掛りが無いのは気になる・・・。鑑識の現場検証がすんでないから、ドアを開けて駐車場や食糧貯蔵庫へ行けない・・・。
「誰かが駐車場や食糧貯蔵庫から入ったとすれば、ドアくらいは撮っておいた方が・・・」
佐介にそういいかけて真理は気づいた。
私たちがここに来る時、誰にも会わなかった。ここに着いた時、駐車場のドアも食材貯蔵庫のドアも施錠されてた・・・。だけど、関口虎雄が死亡した時、スイッチレバーを下げてスイッチオフにした者がいた・・・。私たちはその者と入れ違いでここに来た・・・。
真理は、佐伯が村田客室係に聞いた、駐車場のドアと食糧貯蔵庫のドアの施錠を思いだした。駐車場のドアは、ここの通路側でドアノブの金具をまわして施錠開錠する。駐車場側からは鍵を使って施錠開錠する。駐車場から開錠して、犯行後に施錠するには合鍵が必要だ。食糧貯蔵庫のドアも駐車場のドアと同じタイプだ。食糧貯蔵庫からノブの金具をまわして施錠開錠できる。倉庫のドアが開いていれば食糧貯蔵庫の合鍵を使わなくても食糧貯蔵庫から倉庫へ出入りできる・・・。
「こっち側から、ドアだけでも撮っておくよ」
真理の考えを読んだように、佐介は通路に立って駐車場へのドアと食糧貯蔵庫のドアを撮影した。
「佐介さん。ここがすんだら、調理場から食糧貯蔵庫に下りるドアを撮り、調理場から階段を下りて、食糧貯蔵庫からこのドアと、駐車場へ出るドアも撮ってください。
その後はフロントをまわって、駐車場側からこの倉庫のドアと食糧貯蔵庫に入るドアも撮ってください。
物に手を触れないでください。遺留物の確認に私たちも立ち会います」
佐伯が佐介にそう指示した。
「わかりました」
佐介は真理を見て、考えてるとおりになったよ、と目で示して、通路から階段を登りながら階段を撮影している。真理は階段に遺留品がないか目を凝らしたが、何もなかった。
佐伯は半地下一階の倉庫で高須客室係から、福原富代が死亡したと聞かされ、福原富代の死亡状況と、高須客室係と奥山支配人が悲鳴を聞いた時、二人がどこで何をしていたか確認した。奥山支配人はフロントにいて。高須客室係は休憩室にいた。
「それでは、庭の現場を立ち入り禁止にして現場保存してください。
ここも現場保存します。客には動きまわらずに自室にいるように、従業員にはその場にいるように伝えてください。
シートを持っていってください」
「わかりました」
高須客室係が、倉庫の右にある棚からブルーの防水シートを持っていった。
ただちに佐伯は地元警察署と県警本部に、関口虎雄と福原富代の死亡を連絡した。
連絡を終えた佐伯は山本刑事に指示して全員に防塵カバーを履かせ、関口虎雄の右手そばにある電源ケーブルを示した。ケーブルのプラグはスイッチボックスのコンセントに接続されたままだ。スイッチボックスのスイッチレバーは下がりスイッチオフになっている。
「この電源ケーブルは、なぜこの状態なんですか?」と佐伯。
関口虎雄はコンクリートの床にうつぶせに倒れたまま息絶えている。関口虎雄の右手そばに、三本の銅線が剥きだしになった動力用三相交流電源ケーブルが、鎌首をもたげた蛇のように立ちあがっており、右手は握った花火が手の中で爆発したように、茶と黄と黒の妙な色に変色していた。作業ズボンのポケットの携帯電話は何も表示していなかった。
「わかりません。あのケーブルは旋盤に繋がっていた電源ケーブルだと思います。
旋盤のケーブルがありませんから・・・」
佐伯たちと真理たちを案内した村田客室係は、緊張した顔で倉庫の壁際の旋盤を示した。
倉庫に入った右手の壁に棚があり、正面の壁の前に旋盤やボール盤など工作機械が並んでいる。配電盤は右隅の壁の棚の左側にある。
ここ奥山温泉は市街地から離れている。簡単な水道工事や温泉の配管工事ができるよう、それなりの工作機械がそろっている。配管工事の資格を持っている安藤副支配人が倉庫内の工作機械を管理していると村田客室係は説明した。
「誰でもここに出入りできるんですか?」と真理。
「ふだんはこの倉庫に鍵はしてません。誰でも入れます。
今回の撮影のため、倉庫とこの通路から駐車場へ出るドアの鍵は、関口虎雄さんに渡してありました。撮影機材を車から倉庫に運んで整備するというので・・・。
いつも駐車場のドアは鍵をかけてます。今も鍵がかかったままです」
村田客室係は真理にそう答えた。
「この倉庫に来るには、従業員用階段からと、駐車場からと、あのドアからですね?
あのドアの先は調理場の真下だから、食糧貯蔵庫ですか?」
佐伯は倉庫の向い側にあるドアを示した。
関口虎雄が倒れているこの倉庫は駐車場の北東側にある。倉庫の向い側にあるドアの向こうは駐車場の東側で一階調理場の真下だ。さらにその先は一階事務所の真下だ。
「ええ、食材貯蔵庫です。今、あのドアに鍵がかかってます。調理場から階段で、直接、食材貯蔵庫に下りられます。食材貯蔵庫には駐車場からも行けます。
食材貯蔵庫の南は事務所の真下で、あそこは事務所関係の倉庫です。事務所内の階段と駐車場のドアから行けます」
佐伯が示したドアの向こうは調理場の真下で階調理場から階段を使って下りられる。生鮮野菜などの冷蔵保管棚と食材用の冷蔵庫と冷凍庫がある貯蔵庫だ。駐車場の東側にあり、日頃は直接、駐車場側のドアから食材を搬入して廃品を排出するため、佐伯が示した倉庫側のドアは使われていない。しかし、調理場から食材貯蔵庫へ下りてこの通路のドアを通り、直接倉庫に来るのは可能だ。調理場から食材貯蔵庫を経て駐車場をまわり、駐車場から倉庫に来るのも可能だ。
佐伯はもう一度確認した。
「この倉庫に来る経路は、私たちが来た従業員用階段と、調理場から食材貯蔵庫へ階段を下りてあのドアを通るのと、駐車場からですね?」と佐伯。
「はい、そうです」
佐伯は倉庫に至る三通りの経路を何度も確認している。
真理は倉庫に至る経路の一つ、本館から駐車場へ行って倉庫へ入る経路を考えた。
本館から駐車場へ行く経路は、
奥山館の正面玄関横にある駐車場へ下りる階段、
正面玄関横に併設する車用の通路、
フロント横から駐車場へ下りる、五階までつづいた客用の階段、
これら三つを使う場合と、
事務所から階段で地下倉庫に下り、そこからドアを開けて駐車場へ出る、
調理場から食糧食糧貯蔵庫へ下りて、ドアを開けて駐車場へ出る、
の二つだ。
客が駐車場へ行くには必ず一階ロビーのフロント前を通る。フロントは利用客を見逃さない。となれば、事務所の倉庫を経由するか、食糧貯蔵庫を経由するかだ・・・。
「秋山事務所は、いつから倉庫を使ってるんですか?」
真理は村田客室係を見た。佐伯は、真理に何か忠告しそうな山本刑事を身ぶりで制した。
以前、事件解決に協力した真理たち新聞記者が、刑事とは異なる視点で事件を捉えていたのを佐伯は自覚している。
「今月五日から宿泊して、機材を倉庫に入れたのは五日です。
充電する機材や、発電機の整備を確認をしたいといってました・・・」
村田客室係は関口虎雄に視線を移して、沈んだ声で説明した。
八月五日午後。
関口虎雄はフロントの許可を得て、駐車場から撮影機材を倉庫へ搬入し、倉庫のドアと、駐車場へのドアを半地下の通路側から施錠した。
その後は、機材搬出と搬入時に倉庫と駐車場のドアを開錠して施錠した。
機材搬入後は駐車場と倉庫のドアを施錠し、機材整備に、従業員用の階段を使って倉庫へ行き、機材整備時だけ倉庫のドアを開錠して、整備を終ると施錠していた。
秋山事務所の秋山秀一は、撮影機材の管理を全面的に関口虎雄に任せていたため、奥山館の従業員を除けば、倉庫の出入りは関口虎雄しか許されていなかった。
悲鳴を聞いて私たちと伯父さんたちが、村田客室係に案内されて倉庫に来た時、倉庫のドアは開いていた・・・。他の宿泊客が倉庫に出入りしなかったとは断言はできない・・・。関口虎雄が死亡した時、ここに誰かいたのだろうか?伯父さんはどう考えているだろう・・・。真理が佐伯を見ると、佐伯は佐介に現場の撮影を指示した。
「さて、佐介さん。撮影してください・・・」
真理は佐伯のまなざしが佐介に、『事故死ではないですよ』と語っている気がした。
自殺なら、関口虎雄が、プラグが差しこまれた電源ケーブルの剥きだしになった銅線を握ったまま自分で配電盤のスイッチを入れ、電源コンセントがあるスイッチボックスのスイッチレバーを上げてスイッチオンにした事になる。あるいは、スイッチをオンにした状態で、ケーブルから剥きだした銅線を握った事になる。
だが、悲鳴を聞いて、私たちが駆けつけた時、関口虎雄は倉庫のほぼ中央の撮影機材の近くに倒れていた。配電盤のスイッチはオンになっていて、スイッチボックスのスイッチレバーは下がりスイッチオフになっていた。
明らかに、関口虎雄が感電死した時、誰かがここにいてスイッチレバーを下げてスイッチオフにした。これは殺人事件だ・・・。真理はそう思いながら現場撮影する佐介に付き添い、倒れている関口虎雄の身体の向きや服装、身体の付着物、床にある異物など気がつく限りをメモした。
佐伯と山本刑事は現場をくまなく調べてメモした。
「ここの鍵と駐車場のドアの鍵はあれですね」
佐伯は村田客室係に、作業テーブルのキーホルダーを示した。
「ええそうです。あのキーホルダーはフロントにあった予備の物です」
「山本刑事。この現場は、本部の連中が来るまで、このままにします。
佐介さんが写真を撮り終ったら、ここを立ち入り禁止にしてください」
佐伯は作業テーブルのキーホルダーを示し、
「指紋の照合があるから、指紋を付けないように、消さないように保管してください。
あとで、関口虎雄さんの私物を押収してください」
と指示した。
「了解しました・・・」
そう答えた山本刑事から、何も手がかりが見つからずに困っている気配が漂っている。
只野巡査は倉庫の入口に控えたまま何も話さない。
「サスケ。スイッチボックスと配電盤と、旋盤の電源コード接続部も撮ったか?」
「考えられる所は全て撮ったよ。
佐伯さんたちが気になる所はありませんか?」
「ありません・・・」
伯父さんも手がかりが無くて困惑してる・・・。伯父さんたちは、サスケが撮影する箇所を確認してたが、何も指示しなかった。サスケの撮影に手抜かりはない・・・。何も手掛りが無いのは気になる・・・。鑑識の現場検証がすんでないから、ドアを開けて駐車場や食糧貯蔵庫へ行けない・・・。
「誰かが駐車場や食糧貯蔵庫から入ったとすれば、ドアくらいは撮っておいた方が・・・」
佐介にそういいかけて真理は気づいた。
私たちがここに来る時、誰にも会わなかった。ここに着いた時、駐車場のドアも食材貯蔵庫のドアも施錠されてた・・・。だけど、関口虎雄が死亡した時、スイッチレバーを下げてスイッチオフにした者がいた・・・。私たちはその者と入れ違いでここに来た・・・。
真理は、佐伯が村田客室係に聞いた、駐車場のドアと食糧貯蔵庫のドアの施錠を思いだした。駐車場のドアは、ここの通路側でドアノブの金具をまわして施錠開錠する。駐車場側からは鍵を使って施錠開錠する。駐車場から開錠して、犯行後に施錠するには合鍵が必要だ。食糧貯蔵庫のドアも駐車場のドアと同じタイプだ。食糧貯蔵庫からノブの金具をまわして施錠開錠できる。倉庫のドアが開いていれば食糧貯蔵庫の合鍵を使わなくても食糧貯蔵庫から倉庫へ出入りできる・・・。
「こっち側から、ドアだけでも撮っておくよ」
真理の考えを読んだように、佐介は通路に立って駐車場へのドアと食糧貯蔵庫のドアを撮影した。
「佐介さん。ここがすんだら、調理場から食糧貯蔵庫に下りるドアを撮り、調理場から階段を下りて、食糧貯蔵庫からこのドアと、駐車場へ出るドアも撮ってください。
その後はフロントをまわって、駐車場側からこの倉庫のドアと食糧貯蔵庫に入るドアも撮ってください。
物に手を触れないでください。遺留物の確認に私たちも立ち会います」
佐伯が佐介にそう指示した。
「わかりました」
佐介は真理を見て、考えてるとおりになったよ、と目で示して、通路から階段を登りながら階段を撮影している。真理は階段に遺留品がないか目を凝らしたが、何もなかった。