十六 借金未返済殺人事件⑧ 事件発覚と尋問

文字数 1,835文字

 二〇〇六年八月七日五日、土曜、深夜。
 宗谷慎司、関口虎雄、山田勇作、福原富代の四人が週末に訪れた恵比寿の炉端焼き『漁り火』に泥棒が入った。店主はただちに警察へ窃盗の被害届を提出した。

 二〇〇六年八月七日、月曜。
「この男は・・・、宗谷慎司だぞ!いっしょにいる三人を調べろ!」
 防犯カメラの映像を分析していた渋谷警察署は、週末の客に、捜索願がでている宗谷慎司を見つけた。宗谷慎司と同席していた関口虎雄、山田勇作、福原富代の三人が、宗谷慎司と同郷である事と、『漁り火』近辺の聞き込みから、三人が泥酔した宗谷慎司を車に乗せた事がわかった。車はレンタカーだった。警察は、首都高、高速道、国道の監視カメラから、車が借りだされて返されるまでの動きを捜査した。

 二〇〇六年八月二日、水曜、夕刻。
 レンタカーを借りた関口虎雄と山田勇作が、レンタカーで都内あちこちのホームセンターへ行き、スコップとツルハシをそれぞれ二丁ずつ買った。
 二〇〇六年八月四日、金曜、夕刻。
 山田勇作が運転するレンタカーが、恵比寿の炉端焼き『漁り火』近くの立体駐車場に入った。乗っていたのは、『漁り火』で宗谷慎司と同席していた関口虎雄、山田勇作、福原富代だ。
 三時間後。
 福原富代が、立体駐車場からでたレンタカーの運転席に乗った。関口虎雄と山田勇作が、泥酔した宗谷慎司とともに後部座席に乗った。四人が乗ったレンタカーは、深夜、都心から首都高速と関越道、上信越道を走って長野県へ行った。
 二〇〇六年八月五日、土曜、朝。
 宗谷慎司を除く三人が、国道を使って都内に戻った。

「三人は宗谷慎司を長野県のどこかに置き去りにした。
 おそらく、宗谷慎司は生きていない。
 状況証拠しかないが、三人を連行しろ!」
 渋谷警察署は山田勇作と福原富代と関口虎雄を、誘拐容疑で渋谷警察署に連行した。

 取り調べ室で取調官は関口虎雄に訊いた。
「宗谷慎司はどこにいる」
「・・・」
 関口虎雄は両腕を机に乗せて両手の指を組みあわせて黙秘している。
 取調官は冷静に訊いた。
「泥酔した宗谷慎司を都内から連れだして、帰ってきた時は宗谷慎司がいなかった。
 道路の監視カメラの映像で証拠はそろってる。長野県のどこへ捨ててきた?」
「・・・」
 証拠なんてあるはずがねえ・・・。関口虎雄はそう思った。
「都内のホームセンターをまわってスコップとツルハシを二丁ずつ買ったな。
 それらをどこへ捨てた?」
「・・・」
 そこまで調べたんか・・・。
「もう一度聞く。宗谷慎司はどこにいる?」
 どこかに穴を掘って、宗谷慎司を埋めたのはまちがいない・・・。
「・・・」
 関口虎雄は黙秘をつづけている。
「道路の監視カメラの映像を見るか?
 車を借りた時から、返すまでの、お前たちの動きを見るか?」
 取調官は関口虎雄の顔と身体の動きを見つめた。
「・・・」
 関口虎雄はうつむいたまま顔をあげない。顔を伏せて見せないようにしているのは、表情が変っている証拠だ・・・。もう少しだ。

「宗谷慎司はどこにいる?」
「地元の・・・近くにいる・・・」
 つぶやくように、関口虎雄がいった。
「どうしてる?」
 取調官は優しくいった。
「寝てる・・・」
 消えそうな声で、関口虎雄がそういった。
「土の中か?」
「うん・・・」
 関口虎雄はうな垂れた。

「場所はどこだ?」
 取調官は優しくいった。
「奥山村の近くにある、国営の試験牧場建設用地だ・・・。
 専用道路から林道へ入った森の中の空き地だ・・・」
「そうか・・・」
 取調官は言葉を無くした。
「宗谷慎司は、なぜ死んだ?」
「俺が頸動脈を絞めて落とした・・・」
「柔道か?」
「うん・・・」
「何段だ?」
「三段だ・・・」
「じゃあ、どうしてそうなったか、詳しく話してくれ」
「はい・・・」
 関口虎雄は取調官の質問に淀みなく答えた。

 その後。
 山田勇作と福原富代の自供から、宗谷慎司殺害の全貌が明らかになった。
 関口虎雄、山田勇作、福原富代の自供どおり、信州の山間から遺体が収容された。
 司法解剖の結果、宗谷慎司の肺から土が検出された。
「宗谷慎司の肺から土が検出された。死因は絞殺ではない!生き埋めによる窒息死だ!」
 宗谷慎司が窒息死していた事を聞かされ、三人は留置所の房で呆然とした。

 宗谷慎司が殺害された『借金未返済殺人事件』の裁判は迅速に進んだ。
 翌年、二〇〇七年、二月。
 事件から六ヶ月がすぎた。殺害と死体遺棄により、三人は十五年の実刑になった。
 被告たちは殺害事実を認め、控訴しなかった。

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