七 事件関係者
文字数 1,825文字
「『奥山事件』について県警の記録に、『福原富代の弟の政則が宗谷慎司の家族九名全員を殺害した』とありました。
信州信濃通信新聞社は『七名が殺害されて二人が行方不明』と結論づけましたか・・・」
佐伯は佐介の説明を聞いて自身のタブレットパソコンから顔をあげて座卓の茶碗を取った。
どう考えても、山田勇作の死亡は事故死じゃない。伯父さんも、山田勇作が幅二メートルの落下防止ネットを跳び越えてステージから落下したと認めてるはずだ。十四年前の『奥山事件』が、山田勇作の死亡と関係があるんだろうか?
「伯父さん。山田勇作の死亡時刻に、関係者全員が何をしてたか聞けんたか?」
佐伯と山本刑事と地元駐在所の只野巡査の事情聴取で、現場関係者は総勢六十七人だ。
OfficeMarimuraは十五人。
特設ステージとプレハブを設置したアドイベント企画スタッフは二十二人。
秋山事務所は十人。
ドラマ撮影スタッフは二十人。
山本刑事と只野巡査は今も関係者から事情聴取をつづけている。今夜は二人ともここ奥山館に宿泊するだろう。何か重要な情報があればただちに連絡が伯父さんに伝えられるはずだ・・・。
そう思っている真理に、佐伯がいう。
「雨のため、全員が館内にいました。グループで過してました。
殺人なら、グループで殺害したとみるべきでしょうね。
地元の者の犯行は考えにくいですね。山田勇作さんを知る人はここにはいないようですから・・・」
佐伯はお茶を飲んで茶碗を座卓に置いた。
ほんとうにそうだろうか・・・ここ奥山郷の名は、今は廃村になった奥山村に由来している。秘湯奥山郷のパンフレットにそう書いてあった。あらゆる方面から考える必要がある・・・真理はそう思った。
佐介は佐伯に訊いた。
「解剖結果はでたんですか?」
「先ほどでました。死亡推定時刻は午前九時から午前十一時の間です
現場でおふたりが気づいたように、石の上で転倒したのではなく、落下防止ネットを跳び越えてステージから落ちたようです。
幅二メートの落下防止ネットを越えて転落した原因は何でしょうね・・・」
佐伯は、佐介と真理を納得させるように話している。
「殺人か?事件か?」
真理は、伯父が最初から事件性を匂わせていたのを思いだした。
佐伯は真理の質問に含み笑いしている。困った時の伯父さんの癖だ・・・。
「今のところ、殺人とも事故とも断定できません。
自殺も考えられますが、アドイベント企画の安西さんも、自殺する原因は思いあたらないと話してました。
わかっているのは幅二メートの落下防止ネットを越えて転落した事だけです」
伯父さんは何か隠している・・・。
「伯父さん、何、隠してるん?」
佐伯の含み笑いが消えた。
「真理さんにはかないませんなあ・・・。
実は、山田勇作と福原富代はこの秋、結婚する予定でした。仲人は安西さんです。
だから自殺はしないと考えるのが妥当でしょうね」
「マリッジブルーだったですかね・・・」
佐介が天井を見てそうつぶやいた。サスケは私との結婚を思いだしたみたいだ。サスケがマリッジブルーになったなんて聞いてないぞ。私に話さなかっただけか?そんな事はない。私以上に呑気な性格だ。マリッジブルーなんてサスケに限ってありえない・・・。真理はそう思った。
「それは無いです。籍を入れるだけですからね」
佐伯はふたたび茶碗に手を伸ばした。真理は驚いた。
「同棲してたんか?」
「ええ、実質的夫婦です」
佐伯はまた真理に含み笑いしている。なんだ!結婚前の私とサスケの事をいってるんか?と真理は思った。
「アドイベント企画と秋山事務所は今回初めていっしょに仕事をするといってましたね?現場での事情聴取で、そう聞こえたんです・・・」
佐介は、アドイベント企画と秋山事務所の関係が気になった。山田勇作、福原富代、関口虎雄が顔見知りなら、勤務先の経営者が互いを知っていたのではないのか?
「ええ、OfficeMarimura、秋山事務所、アドイベント企画。いずれも初顔合せです。
ただ・・・」
佐伯は茶碗の中を見たまま口を閉ざした。
「ただ、何?」
真理は急須のお茶のパックを交換してポットから急須にお湯を入れた。佐伯は何食わぬ顔をしている。なかなか本音を語らない佐伯だ。真理は座卓の茶碗のお茶を入れ換えて佐伯と佐介の座卓に置いた。
「実は、秋山さんが気になる事を話しましてね・・・」
佐伯は茶碗を取って秋山秀一からの聴取内容を説明した。
信州信濃通信新聞社は『七名が殺害されて二人が行方不明』と結論づけましたか・・・」
佐伯は佐介の説明を聞いて自身のタブレットパソコンから顔をあげて座卓の茶碗を取った。
どう考えても、山田勇作の死亡は事故死じゃない。伯父さんも、山田勇作が幅二メートルの落下防止ネットを跳び越えてステージから落下したと認めてるはずだ。十四年前の『奥山事件』が、山田勇作の死亡と関係があるんだろうか?
「伯父さん。山田勇作の死亡時刻に、関係者全員が何をしてたか聞けんたか?」
佐伯と山本刑事と地元駐在所の只野巡査の事情聴取で、現場関係者は総勢六十七人だ。
OfficeMarimuraは十五人。
特設ステージとプレハブを設置したアドイベント企画スタッフは二十二人。
秋山事務所は十人。
ドラマ撮影スタッフは二十人。
山本刑事と只野巡査は今も関係者から事情聴取をつづけている。今夜は二人ともここ奥山館に宿泊するだろう。何か重要な情報があればただちに連絡が伯父さんに伝えられるはずだ・・・。
そう思っている真理に、佐伯がいう。
「雨のため、全員が館内にいました。グループで過してました。
殺人なら、グループで殺害したとみるべきでしょうね。
地元の者の犯行は考えにくいですね。山田勇作さんを知る人はここにはいないようですから・・・」
佐伯はお茶を飲んで茶碗を座卓に置いた。
ほんとうにそうだろうか・・・ここ奥山郷の名は、今は廃村になった奥山村に由来している。秘湯奥山郷のパンフレットにそう書いてあった。あらゆる方面から考える必要がある・・・真理はそう思った。
佐介は佐伯に訊いた。
「解剖結果はでたんですか?」
「先ほどでました。死亡推定時刻は午前九時から午前十一時の間です
現場でおふたりが気づいたように、石の上で転倒したのではなく、落下防止ネットを跳び越えてステージから落ちたようです。
幅二メートの落下防止ネットを越えて転落した原因は何でしょうね・・・」
佐伯は、佐介と真理を納得させるように話している。
「殺人か?事件か?」
真理は、伯父が最初から事件性を匂わせていたのを思いだした。
佐伯は真理の質問に含み笑いしている。困った時の伯父さんの癖だ・・・。
「今のところ、殺人とも事故とも断定できません。
自殺も考えられますが、アドイベント企画の安西さんも、自殺する原因は思いあたらないと話してました。
わかっているのは幅二メートの落下防止ネットを越えて転落した事だけです」
伯父さんは何か隠している・・・。
「伯父さん、何、隠してるん?」
佐伯の含み笑いが消えた。
「真理さんにはかないませんなあ・・・。
実は、山田勇作と福原富代はこの秋、結婚する予定でした。仲人は安西さんです。
だから自殺はしないと考えるのが妥当でしょうね」
「マリッジブルーだったですかね・・・」
佐介が天井を見てそうつぶやいた。サスケは私との結婚を思いだしたみたいだ。サスケがマリッジブルーになったなんて聞いてないぞ。私に話さなかっただけか?そんな事はない。私以上に呑気な性格だ。マリッジブルーなんてサスケに限ってありえない・・・。真理はそう思った。
「それは無いです。籍を入れるだけですからね」
佐伯はふたたび茶碗に手を伸ばした。真理は驚いた。
「同棲してたんか?」
「ええ、実質的夫婦です」
佐伯はまた真理に含み笑いしている。なんだ!結婚前の私とサスケの事をいってるんか?と真理は思った。
「アドイベント企画と秋山事務所は今回初めていっしょに仕事をするといってましたね?現場での事情聴取で、そう聞こえたんです・・・」
佐介は、アドイベント企画と秋山事務所の関係が気になった。山田勇作、福原富代、関口虎雄が顔見知りなら、勤務先の経営者が互いを知っていたのではないのか?
「ええ、OfficeMarimura、秋山事務所、アドイベント企画。いずれも初顔合せです。
ただ・・・」
佐伯は茶碗の中を見たまま口を閉ざした。
「ただ、何?」
真理は急須のお茶のパックを交換してポットから急須にお湯を入れた。佐伯は何食わぬ顔をしている。なかなか本音を語らない佐伯だ。真理は座卓の茶碗のお茶を入れ換えて佐伯と佐介の座卓に置いた。
「実は、秋山さんが気になる事を話しましてね・・・」
佐伯は茶碗を取って秋山秀一からの聴取内容を説明した。