三十六 自白③

文字数 1,430文字

 奥山渓二郎は鞠村まりえと国会議員谷村太郎との経緯を説明し終えた。
「慎司を殺した三人の所在は常に把握していました。
 あとは三人をここに集めて、事故死させるだけでした。
 まりえさんに頼んで、三人がここに集まるようにしてもらいました・・・」
 奥山渓二郎は、鞠村まりえがアドイベント企画に仕事を依頼して承諾させた手段を語った。それは、秋山秀一が事情聴取で鞠村まりえについて語った内容と一致していた。

「鞠村まりえさんは、いつ、何名の宿泊予約をしましたか?」
「まりえさんは宿泊予約していません」
「どういうことです?」
「日程と人員は、私が決めました。
 ファションブランドMarimuraの商品CMなどに使う画像と映像を撮るのに、アドイベント企画と秋山秀一事務所を使うのはわかっていました。映像作成過程をオンエアーするため、ドキュメントチームを同行するのは意外でした。
 あの怯えていたまりえさんが、転んでも只では起きない商売人になったんですから、現実は何が起るかわかりませんでした・・・」
 谷村国会議員の姉のブティック経営を継いで、今や、鞠村まりえはファッションブランドメーカーMarimuraと、販売部門MadamMarimura、それらの広告関連を独占的に扱うOfficeMarimuraの経営者だ。そして、OfficeMarimuraの専属で現在売れっ子のモデル、甲斐ソレアと麻生玲香は、まりえの実の姪、今は亡き宗谷慎司の末の双子の妹だ。
 奥山渓二郎は、現実はどう変化してゆくかわからないと思った。

 奥山渓二郎の説明、『Marimuraの商品CMなどに使う画像と映像を撮るのに、アドイベント企画と秋山秀一事務所を使うのはわかってた』とは事前に計画されていたとの事だ。計画したのは誰だ?奥山渓二郎か?谷村議員か?鞠村まりえか? 真理は、誰が犯行を計画したか訊こうと思い、佐介の袖を引っぱった。
「うん、わかってる。もうちょっと話を聞こう・・・」
 佐介も思いは真理と同じだ。

「事情聴取で、秋山さんがモデル二人を遠ざけようとしている印象を受けました。理由がありますか?」
 そういって佐伯は奥山渓二郎を見ている。
「秋山さんは借金未返済殺人事件と奥山事件関連に関わりたくなかったのだと思います
 秋山さんは何事にも慎重な人です。従業員から仕事関連の人まで、口外しませんが綿密に調べる人です。谷村先生の口利きで、関口虎雄が秋山事務所に入社した時、経歴からいろいろ調べて慎司の妹二人について実態を知ったようでしたが、まりえさんの存在には気づかなかったようです」
 奥山渓二郎はおちついている。嘘は無いようだ。

「秋山さんは二つの事件を知ってたんですね・・・。
 ところで、奥山さんは、秋山さんの動きをどのようにして知りましたか?」
 佐伯は穏やかに微笑んで奥山渓二郎を見ているが、メガネの内の眼光は鋭い。
「谷村先生は、自身で出所者の就労支援をすると同時に、支援を弁護士仲間に依頼してました。私は谷村先生から就労支援企業の情報をそれなりに聞いていました」
「谷村国会議員の地元後援会事務局長ですから、業務上で知り得た事項ですな・・・」
 佐伯はメガネの奥から上目づかいに奥山渓二郎を見ている。
 佐伯さんは、谷村国会議員の守秘義務違反が無いかを考えてる、と佐介は思った。真理も佐介に同意してうなずいている。
「では、事件について説明してください・・・」
 佐伯の言葉に、奥山渓二郎はおちついて話しはじめた。
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