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文字数 1,458文字

「…どうしてこんなことを?」
私は玉木(たまき)に尋ねた。が、
「許せなかったんだろ?タマちゃん。」
答えたのは雷蔵(らいぞう)氏であった。
「エッたん。。。」
玉木(たまき)もまた、あの頃の自分に(かえ)り、あの頃の名で親友を呼んだ。幼馴染なのかもしれないけど、高校生になってからもそんな風に呼び合っていたのだろうか。。。
「覚えてるかい?」
玉木(たまき)がゆっくり穏やかに、歌うように呟けば、
「忘れるわけないだろ。」
雷蔵(らいぞう)氏もまた掛け合いのように、主旋律に寄り添うオブリガートのように答えた。
「こういう仕事をしてるとね、腹に据えかねることが沢山あるよ、理不尽な無理難題ばかり()し掛かってくるよ、でもね、そんなとき、タマちゃん、君との思い出に何度も救われた。タマちゃん、ほんの束の間でも記憶の中であの日々にかえるだけで、また何度でも頑張れるんだよ…」
「ふぬくくぅうぇったん!!」
背を向けている彼がどんな表情かは分からないが、多分泣いている気がした。そして泣きながら彼は語り始める。
「よくこうして、半裸で校内を駆け回ったよね。」
てっきりいい話がくる時間帯かと思っていたので面食らった。ん?半裸?現状の文脈を鑑みると、下半身を露出した状態で公共の場を走り回ったよね、という意味に聞こえるが、いや、まさかそんなことはあるまい。
「おいおいよせやい!馬鹿言うなよ!俺はちゃんとスカートを履いてたぞ!」
いや雷蔵(らいぞう)氏アンタもおかしいぞ!しかもやっぱ下半身が裸のほうの半裸みたいだ…。
「教室からみんな出てきてさ、先生とか何人も集まってきてさ、歓声を上げていたね」
それ多分悲鳴だな、なんだこの二人…
「リコーダー狩りも楽しかったね」
ああ、これ好きな子のリコーダーのなんちゃらで間接キス♡とか言って盛り上がってたやつかな、キツいなぁ…。
「タマちゃんは凄かったね。全校生徒の全部やったもんね!」
全校生徒のリコーダー!?軽く想像を絶しているよ!?てか玉木(たまき)の唾液がもつのか?!終われよ早く、この回想!

「だからこそ、守りたかった。。。美しい記憶が眠るこの学舎を。」
お、急に玉木(たまき)の肩がわなわなと震え出した…

「なのにエッたんはっ、本校舎解体に賛同した!」
振り返った玉木(たまき)の顔には憤怒の情が刻まれていた…
――やめろー!振り返るなら何か履け!
私の心の叫びも虚しく、雷蔵(らいぞう)氏はそのまま話し続けた。
「ごめんよタマちゃん、でもね、この校舎はもう老朽化し過ぎて使えない。仮に建て替えても入学する生徒がもういない…」
「そんなこと知ってるもん!」
玉木(たまき)は子供が駄々をこねるように地面を踏みながら叫んだ。

そこへ、
飛田(とびた)先生!」
古沢(ふるさわ)君と九条(くじょう)という他校の女子生徒が駆けつけてきた。
「もう体調は大丈夫なの?」
「はい、九条(くじょう)さんに助けてもらいました。」
九条(くじょう)という他校の女子生徒が少しは役に立ったようで良かった。古沢(ふるさわ)君の見立ては間違っていなかったということになる。
「これ、もう大詰めの段階ですかね?」
命を狙われていた雷蔵(らいぞう)氏と玉木(たまき)が対峙していること、その玉木(たまき)の着ているものがボロボロで下半身に至ってはほぼ丸出しであること、等の情報を素早く整理して、大方の成り行きを悟ったようだ。…恐るべき理解力である。

「タマちゃん、じゃあアレは覚えてるかい?」

今度は雷蔵(らいぞう)氏が玉木(たまき)に尋ねたが…、
――まだ思い出話があるんだろうか、また回想のターンが来るのだろうか、キツい。いやでも今は古沢(ふるさわ)君も九条(くじょう)さんもいる!一人で背負わなくていいんだ!
玉木(たまき)は悪ガキのように鼻をすすりながら答えた。

「それこそ忘れる訳ないだろ…この木の傍に埋めたんだ…」

「そう、ふたりのタイムカプセルを…」


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