5
文字数 1,171文字
体育館で全校生徒が踊り狂っている。
マァ君目の前の光景に戦慄した。氷の針金で四肢を縛られたように動けない。
――逃げよう!今すぐここから逃げよう!!
いや、待て!せっかくだから江草 先輩を見て行こう。
体育館のステージ手前に吹奏楽部用のスペースが準備されている。そこに彼女はいるはずだ。
マァ君は鉄製の重い扉をもう少しだけ広く開いた。
…ここからでは江草 先輩を目視出来ない。
マァ君は再び扉をそっと閉じ、一旦上履きのまま外を歩いた。
ステージ側にも扉がある。皆、演奏と踊りに夢中になっている。そこから行けば江草 先輩のところまで近づけるハズだ!
体育館の裏側に回り鉄扉に手を掛けた。どうやら鍵をかけてはいないようだ。ゆっくり、ゆっくりと力を入れ扉を開ける。
マァ君の顔が通るくらいの隙間を確保した。
オーケストラでも吹奏楽でも楽器の配置というものはほぼ決まっている。概ね、高い音の楽器は前方、低い音の楽器は後方右側…あ、右側とはステージに向かい合って右側、という意味。
そして打楽器は最後方に置かれることが常だ。
扉の隙間から顔を差し入れて覗くと丁度目の前に女子の後ろ姿があった。
――うおお!江草 先輩!
この神話レベルの安定感のあるふくよかなシルエットを見間違えるはずがないのだ!まさしくそれは江草 先輩その人であった。
打楽器奏者の生徒は他に二人いたが、そこまで近くなく、またマァ君の存在に気付いていない!ものすごく演奏に集中しているようだ。
いや、集中しているというよりも、没入している…と言う方が正しいだろうか…。一心不乱にわき目もふれず楽譜と指揮者を凝視している。
「江草 先輩。」
マァ君先輩を呼んでみた。
演奏中、先輩はこの光景をどんな風に見ているのだろうか…。
昨晩の飛田 先生との話し合いの中でもそれに触れた。
先輩はこの一連の現象についてどう思っているのだろうか…。
「江草 先輩!!」
先程より少し声を張ってもう一度先輩を呼んでみる。
だが、反応はない。
間近まで近づいて声をかけても気付く素振りがない。
江草 先輩の目は何も見ていなかった。楽譜も指揮者も何も…。目に光はあるけれど、意識はそこにはないような…、そんな目に見えた。
――演奏中の記憶がないのだろうか…
だとしたら合点がいく部分もある。
自分の演奏で周囲の人が怪奇行動をとる、と分かっていたら普通はそれを躊躇するはずだからだ。
でも江草 先輩は頼まれるままに従順に演奏を続けているのだ。
やはりこの現象は江草 先輩の意図や意向とはあまり干渉しない、或いは無関係なのかもしれない。
だからこそマァ君はあることを閃いた!
そう、体育館にいる人誰一人、そして打楽器担当の生徒を含め吹奏楽部員の誰一人としてマァ君を視界に捉えていない。
勿論、江草 先輩本人も。
マァ君図らずも、全タンバラーの背後という絶対の死角をとったのだ。
!江草 先輩に触ってみよう、と。
マァ君目の前の光景に戦慄した。氷の針金で四肢を縛られたように動けない。
――逃げよう!今すぐここから逃げよう!!
いや、待て!せっかくだから
体育館のステージ手前に吹奏楽部用のスペースが準備されている。そこに彼女はいるはずだ。
マァ君は鉄製の重い扉をもう少しだけ広く開いた。
…ここからでは
マァ君は再び扉をそっと閉じ、一旦上履きのまま外を歩いた。
ステージ側にも扉がある。皆、演奏と踊りに夢中になっている。そこから行けば
体育館の裏側に回り鉄扉に手を掛けた。どうやら鍵をかけてはいないようだ。ゆっくり、ゆっくりと力を入れ扉を開ける。
マァ君の顔が通るくらいの隙間を確保した。
オーケストラでも吹奏楽でも楽器の配置というものはほぼ決まっている。概ね、高い音の楽器は前方、低い音の楽器は後方右側…あ、右側とはステージに向かい合って右側、という意味。
そして打楽器は最後方に置かれることが常だ。
扉の隙間から顔を差し入れて覗くと丁度目の前に女子の後ろ姿があった。
――うおお!
この神話レベルの安定感のあるふくよかなシルエットを見間違えるはずがないのだ!まさしくそれは
打楽器奏者の生徒は他に二人いたが、そこまで近くなく、またマァ君の存在に気付いていない!ものすごく演奏に集中しているようだ。
いや、集中しているというよりも、没入している…と言う方が正しいだろうか…。一心不乱にわき目もふれず楽譜と指揮者を凝視している。
「
マァ君先輩を呼んでみた。
演奏中、先輩はこの光景をどんな風に見ているのだろうか…。
昨晩の
先輩はこの一連の現象についてどう思っているのだろうか…。
「
先程より少し声を張ってもう一度先輩を呼んでみる。
だが、反応はない。
間近まで近づいて声をかけても気付く素振りがない。
――演奏中の記憶がないのだろうか…
だとしたら合点がいく部分もある。
自分の演奏で周囲の人が怪奇行動をとる、と分かっていたら普通はそれを躊躇するはずだからだ。
でも
やはりこの現象は
だからこそマァ君はあることを閃いた!
そう、体育館にいる人誰一人、そして打楽器担当の生徒を含め吹奏楽部員の誰一人としてマァ君を視界に捉えていない。
勿論、
マァ君図らずも、全タンバラーの背後という絶対の死角をとったのだ。
!