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文字数 1,377文字

「復讐…だと?」
マァ君も雰囲気出そうと思って悪役に対峙するヒーローぽく振舞う。今はそうするべきであるような気がしてならない。まぁ椅子に縛られて倒されてるままなんだけど…
「ぬふふふふ…江草(えぐさ)(れん)の〖支配者の手〗の能力を使って、この腐り切った世界に復讐してやるのだ!」
…喧嘩の相手が"全世界"…、この男、スケールがデカい!!!
マァ君も負けていられない!
「バカな!復讐などして何になるというのか…憎しみで憎しみはすすげない、恨みを晴らせば恨みをかう、報復の後にあるのは、さらなる報復だというのに!」
「ええい!お前に何が分かる!!!」
玉木(たまき)はポーズを決めながら叫ぶ…。
てか、ええい!とか言う人本当にいるんだなぁ…、マァ君は密かに心打たれた。
「…お前に…お前なんかに…何が分かる…」
玉木(たまき)は口惜しげに(うつむ)き拳をわなわなと震わせ鼻水を垂らしている。
マァ君は彼の次の言葉を黙して待った。
「私はね、この学校の卒業生なんだ。30年以上も昔のことだ…。」
そして玉木(たまき)は穏やかな声で語り始めた。疲れた表情にも、思い出を手繰り懐かしむような色合いが差した。
「校庭の桜の木々も皆若く、木造の校舎からはまだ(うるし)(ひのき)の香りがしていてな…」
「あのさ玉木(たまき)
「空は今よりもずっと青く、風は今よりもずっとずっとふんわりほこほこしていたよ…」
玉木(たまき)!」
「ミっちゃんのおかっぱ頭、サっちゃんのえくぼ、ケイちゃんのスカートの…」
玉木(たまき)!!!」
「…ん?」
「この話長いかな?」
「まあ普通だな、第五章まである。今まだ序章だ…」
――長えな…
「聞くよ、聞くんだけどさ、最終章の最後のほうからやってもらって感じでもいい?」
「いいけど、だいぶ端折ることになるぞ?」
「かまわん。」
「分かった。」
――良かった、案外コイツ話のわかるヤツだな。

玉木(たまき)は何やら、ちょこまかと手足を動かし、小声でモゴモゴ何かに言っている。
これ多分早送りを表現してるんだな…
本当すごいな玉木(たまき)
感心していたらピタッと動きが止まった。

「おのれーーーー!!!」
――急に再開した!
雷蔵(らいぞう)!!!俺はお前をーーー、許さないーーーー!」
――ん?!新キャラ?初めて聞く名前いたよね…
「絶対に、絶対にこの恨み、三割増しで返してやるからなああああ!」
「そこは倍返しでいいじゃねぇかよ!微妙にのせるなよ!」
――しまった、つい挟んでしまった。
「その日俺は復讐を誓った!あの男に俺と同じ苦しみを味合わせてやると!」
玉木(たまき)は鼻水を袖で拭いながらではあるがもう落ち着きを取り戻していた。
「その雷蔵(らいぞう)っていう人に、か?」
「そうだ、江草(えぐさ)雷蔵(らいぞう)、我が校の校舎の取り壊しを決めた男だ。」

――江草(えぐさ)…、先輩の身内か?

「君が考えている通り、江草(えぐさ)雷蔵(らいぞう)江草(えぐさ)(れん)の父親だ。」

マァ君の全身が泡立った!
「貴様!何をする気だ!」
「ぬふふふ…」
玉木(たまき)はマァ君を見下ろしながら、冷え冷えと残忍に笑う。その様子は心底ゾッとしたに違いない。鼻水さえなければ…
「言っただろ?復讐だよ!」
(ちげ)えよ!お前の復讐も雷蔵(らいぞう)ってのもぶっちゃけどうでもいい!江草(えぐさ)先輩が傷つくようなことがあれば、俺は、いやマァ君お前許さない!」
「ぬふふふふ…、君の言う通りだね、今度は君が私に復讐するわけだ!ぬふふふふふ!」

「だが残念だがそれは出来ないよ、だって…」
玉木(たまき)の表情はいっそう残忍な愉悦に歪んだ。

「だって君はここで死ぬんだからね。」

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