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文字数 1,184文字

――江草(えぐさ)(れん)がタンバリンを叩いている。
少し距離はあるものの見間違うはずがない。数カ月前、文字通り肉体をぶつけ合って闘った相手だもん。小柄だけど密度が高く頑丈で重い…まったく刃が立たなかった…。
技の精度も高く、俊敏でタフな筋肉はもしかして楽器演奏に向いているのかもしれない…とは思うけど、何故に江草(えぐさ)(れん)がタンバリンを…しかも(すげ)え上手いな!
九条(くじょう)さん!行きましょう!」
駆け出す正直(まさなお)の後に続く。
――?!はっ、もしや!
正直(まさなお)はこの"復讐のパレード"に関する一連の出来事を調べているうちに、サッちゃんの存在を知ったのかもしれない。ファミレスで独り茶会(ティータイム)しているサッちゃんに一目惚れしたんじゃないのかも…?
捜査線上にサッちゃんが浮上し、協力してくれるかとか調べてるうちに一目惚れしたのかもしれない!だとすると、出会いのきっかけになってくれた江草(えぐさ)(れん)にも、少なからず感謝の念が湧いて来ようというもの!
校庭を駆ける!
中央に人の渦が密集している。そのタンバラーの人渦(ひとうず)ともいうべき魔物は四方八方に触手を伸ばすように広がっている。

キィーーーン、ガザガザ…

突然マイクのスイッチが入ったみたいな音がした。
走りながら音のした方に目をやると、よく校長や教頭が校庭でお話するときに使う大きな台に乗った派手な衣装のおじさんが見えた。
玉木(たまき)です!この一件の黒幕です!」
あ、黒幕とかいたんだ…てっきり江草(えぐさ)(れん)が犯人なのかと思ってた!
九条(くじょう)さん、急ぎましょう!」

ガガガ、キィーーーーーン

再び耳障りな音、その後に正直(まさなお)玉木(たまき)と呼んだおじさんの声がした。

♪大きな音たててぇ♪
♪あなたと背伸びしてぇ♪

それは歌声だった。んん…辛うじて…歌?なんだよねきっと多分…くらいの歌声だった。吹奏楽部の演奏するサンバに合わせたその歌は、何だか既成の楽曲にそっくりだった…。
玉木(たまき)のオリジナルサンバです!」
「ほとんどパクリだよね?」
「気を付けて下さい!歌詞の通りに踊らないと、俺たちがクロックライトの制御下にないことがバレます!」
成る程、周囲を見ると確かに玉木(たまき)の歌に合わせて皆一糸乱(いっしみだ)れぬ動きをしている。
走りを緩め、サッちゃんと正直(まさなお)もホタテのように手をひらひらさせ、背伸びをして腰をクイクイッとした。

♪ラッコ サル クマ ポニー♪
♪今すぐうぅ カニになりたいぃー♪

このスピード感での動物真似キツイ!!無理だぁ…。正直(まさなお)も足をもつれさせ、転びそうなところをサッちゃんが抱き止めた。が、その拍子にバランスを崩し一緒に倒れた。

そしてそのとき、サッちゃんと正直(まさなお)玉木(たまき)というおじさんと目が合った…。

「くそ…(わな)だったか…。」
そっか…、玉木(たまき)というおじさんはあんな恰好だけど案外賢くて、正直(まさなお)の行動は全部読まれているのかもしれない…

「ぬふほひっ!!!」
おじさんは恍惚で正気を失ったような満面の笑みで言った。

「見ぃぃつぅけたあああああぁ…ひひ!」
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