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文字数 1,064文字

「恐らく玉木(たまき)江草(えぐさ)氏、あ、江草(えぐさ)先輩じゃないほうの…、紛らわしいですね。こちらは雷蔵(らいぞう)氏と呼ぶことにしますね。」
一連の話の中に江草(えぐさ)という人物が二人出てくる。
(くだん)のタンバリンを叩く張本人の江草(えぐさ)(れん)、そしてその父親で杏仲(あんなか)高校運営理事の江草(えぐさ)雷蔵(らいぞう)である。古沢(ふるさわ)君は江草(えぐさ)雷蔵(らいぞう)を"雷蔵(らいぞう)氏"と呼称すると前置きをして話を続ける。ちなみに"氏"という敬称は一般的に苗字の後につけるものである、ということを古沢(ふるさわ)君は知っているだろうか…。
「恐らく玉木(たまき)雷蔵(らいぞう)氏を殺害するため〖サンバ隊〗を利用すると思います。」
「サンバ隊…って、初日に校庭でやるやつだね。全校生徒と教員、それから父兄(ふけい)や来場者も含め全員でサンバを踊りながら校内を練り歩く…」
文化祭のオープニングを盛大に彩る目玉企画となっている。来賓席には江草(えぐさ)雷蔵(らいぞう)もいるはずだ。
「今朝の全校集会で一度タンバラーになってしまった生徒はもうクロックライトに抗う事が出来ません。なので当日は俺たちをのぞいた全校生徒と来場者全員が暴徒と化すでしょう。」
「…?!もしかして、それを雷蔵(らいぞう)氏に(けしか)ける?」
「…間違いないと思います。」
彼は言い切った。
「でもどうやって?!」
玉木(たまき)はオリジナルを準備しているんです。」
「オリジナル?」
――オリジナル?何のオリジナルだろうか…この文脈(ながれ)だと、オリジナルの楽曲?
飛田(とびた)先生さっき、"タンバラーの動きは演奏の内容と関係してる"って言ってましたよね。」
「そうなの。校歌の歌詞に合わせて踊って、静かなところはゆっくり、威勢の良いところは激しく踊る、みたいにね、曲調にも連動してるみたいなの。」
「それで俺、分かったんです。玉木(たまき)は自分で歌詞を書き、活気に満ちたサンバの曲調と合わせて意のままにタンバラーを操るつもりです。」
その大群を一人の人間に(けしか)ける?ひとたまりもないだろう…
「人殺しの為のオリジナルサンバ…」
――そんな、まさか…

「復讐のパレードの始まりです」

玉木(たまき)の言葉が脳裏に蘇った。

「どうすれば…いいの…」
私は全身に滞留する鈍い恐怖に身を固くした。
「何とかして江草(えぐさ)先輩のタンバリンを止めるしかありません。でも…」
「簡単にはいかないわよね…。」
今朝の全校集会の騒ぎで、古沢(ふるさわ)君は演奏を止める術を看破している。玉木(たまき)がその対策をしないはずはない。

ここでこれ以上考えても効率が悪い。帰宅しゆっくり休養しギリギリまで考えよう、ということになった。
伝票を掴み席を立つと

「…あれ…あの人…」

と、古沢(ふるさわ)君が窓際の席の女性を指した。

「見たことがあります。確か…」
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