文字数 707文字

「…あの、え、江草(えぐさ)さん…放課後ってさ…時間ある?」
(れん)に話しかけて来たのはクラス委員の武本(たけもと)と、彼女と仲の良い烏山(からすやま)だった。
「え?…私?」
(れん)は思わず武本(たけもと)にそう聞き返してしまった。
だが武本(たけもと)はやはり紛れもなく(れん)に話しかけたのだ。
「うん、今日、早く終わるからちとせと二人でカラオケに行くんだけど、もし…良かったら、その、時間あったら一緒にどうかな、って思って。」
誰かに誘われるなんて随分久々のことだ。高校に入学して、もしかして中学生の頃から考えても初めてかもしれない。
「え、カラオケ…?」
「そう、カラオケ。」
聞き間違いではないようだ。
「私が行っていいの?」
「もちろんだよ!付き合ってもらえるかな?」
勘違いでもないようだ。
「え…うん!いいよ!」
「本当?!ありがとう!やった!」
武本(たけもと)は隣で固唾(かたず)をのんで様子をみていた感じの烏山(からすやま)と手を取り合って喜んでいた。


* * *

(れん)は絶妙に鈍い。
馬鹿ではないし、性根(しょうね)も悪くない。だがアクロバティックに鈍い。

武本(たけもと)ひあの と烏山(からすやま)ちとせはクラスの中でも明るく目立つ存在で人気もある。その二人が、校内のアンタッチャブルである江草(えぐさ)(れん)を急にいきなり脈絡なくカラオケに誘う…、誰が見聞きしてもとっても不自然である。
だが(れん)は嬉々として何の疑いも持たずに武本(たけもと)達についてきた。

「ちとせ…やっぱり本当のこと言った方がいいよ…」
「ダメだよ…そんでついてきてくれなくなったら元も子もないんだよ?」

電車のボックス席で2人が何やらコソコソと話しているのを、(れん)は向かい側の席でニコニコしながら眺めている。
武本(たけもと)烏山(からすやま)は電車で通学しているので、(れん)は学校に自転車を置き、二人と一緒に電車で市内に向かうことにしたのだ。
電車も久しぶりだ。



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