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文字数 737文字

「私、ちょっとお花を摘みに…。」
といって(れん)は部屋を出る。
「はーい!大きな花束持って帰ってきてねー!」
武本(たけもと)がすっかり(れん)のイジリ役になったのか、それともやはり悪気無く送り出しているのか謎である。
あれから四人で二時間以上歌っている。

(れん)が酷い点数しか出さないので採点機能はもう使わなくなった。
武本(たけもと)烏山(からすやま)にとっては、ほんの先程まで校内で一番近寄りがたいクラスメイトだったのだ。
さすがに気は遣う。

だがこの数時間で、入学当時から親友だった…とまではさすがにいかないが、だいぶ打ち解けた。

花束をかかえ…ては勿論いないが、手洗いから部屋に戻る途中でフロントを通る。

――ん?

パーティーグッズが自由に持ち出せるようになっているコーナーがある。

派手な衣装や帽子やメガネ、果物の形をしたシェーカーやマラカスも置いてあった。

その中でひとつ、一際(ひときわ)(れん)の目を引いたものがあった。

「これ!お借りしてもいいですか?」
カウンターの中年の男に声をかける。
「14番ルームだね。帰るとき、そこ置いといてねー」
「承知しました!有難う御座います。」
(れん)は礼を言って部屋に戻った。

*

江草(えぐさ)さん、何それ…」
真っ先にそれを見つけた烏山(からすやま)(れん)が手にしているものについて尋ねた。
「私、歌うのって苦手だけどコレなら一緒にできるかなって。」
確かに四人で歌うとやや少し(れん)の音程のズレが目立つ。カラオケなんてものは楽しく歌えればそれでいいのだが、本人は気になるのだろう。かといって皆が楽し気に歌っている横でただ座って聞いているのも場違いであろう。
そういう諸々の要らぬ気遣い回避のアイテムとして、(れん)はコレを借りて来たのだ。

アップテンポの曲のイントロが始まった。

彼女が握るのは、黄色いタンバリン。

それが最初に鳴らしたのは…

人生が変わる音だった。
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