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文字数 1,161文字
江草連の乗っていた神輿は本物ではなかった。木材を組み合わせ、中央にすのこ板状の部分と持ち手部分を作った骨組みに新聞紙とボンドで形成したハリボテをカラフルに塗った簡素なものではあったが、それでも男子生徒10人近くで持ち上げていたのだ、200㎏を越えているのではないだろうか…。サッちゃんは神輿の一番持ちやすそうな部分に手をかけた。まだ下にいる人たちが怪我をしないように、垂直に持ち上げなければならない。
「ふんがっくっく…」
サッちゃんは腕と足腰に力を込めた。
――…だめか…
押したり引いたりするならまだしも、真上に持ち上げるとなると相当力が要るし、先ずもって自身の体重が足りない。
――もう一度!
諦める訳にいかない、正直が下敷きになってるかもしれないし、仮に彼がどこかで無事でも、実際目の前には神輿の下でのびている生徒が沢山いる。
「…ふんがっくっくぅーー!!」
ふわりと神輿は持ち上がる。さっきまであんなに重かったのに…
「江草連!?」
「手伝うよ、サッちゃん。」
神輿の反対側を江草連が持ってくれている。
こういう状況にした張本人に助けられる、というちょっぴり微妙な流れではあったけれども有難い。
「せーの!」
と、呼吸を合わせて神輿を高々と持ち上げて安全な場所に置いた。
*
「江草さん、迅速な対応ありがとうございました。」
と私は雷蔵氏に深々と頭を下げた。
「いや、君のお陰だよ。」
クロックライトを躱し、無事正気を保てた私と雷蔵氏は、すぐに次の準備に取り掛かったのだ。
雷蔵氏は市内すべての救急隊の出動、および市外からの応援を取り付けた。
私は救急隊の人達が作業しやすいように体育館を開け、必要か分からないがマット等を引いた。
タンバラー達はクロックライトの制御から解放されると極度の疲労感と虚脱感、場合によって脱水症状や貧血に見舞われる。みな軽度の症状ではあるけれども万全の準備が必要である。
経緯と状況を救急隊の代表者に説明し終わって、私達はひと段落していた。
「あっ!?」
「どうかしたかね?」
「玉木がいません!」
そう、バタバタしているうちに黒幕の玉木を見失ってしまっていた。
私は慌てて校庭の隅々を見回したがどこにもいない。
が、雷蔵氏は落ち着いた声で言った。
「大丈夫、大体見当はつくさ…。」
*
私は歩き始めた雷蔵氏についていった。
そこは中庭だった。
中庭のある校舎の南側は、今は使っていない教室が多いためか、普段からあまりここに訪れるものはいなかった。
が、そこに玉木がいた。
逃げるときにこけたのだろうか、派手な衣装は破れて下半身はほぼ丸出しになっていたが、桜の大樹と向かい合う様に背をそらし、懐かしげに、愛おしげにそれを見上げる姿は少年のようでもあった。
「タマちゃん…」
雷蔵氏は
玉木を、恐らくあの頃、親愛を込めそう呼んでいたのであろう旧友の名で呼んだ。
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