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文字数 942文字

 タンバリンは軽めの打楽器である。叩く分には重くはない。が、この楽器には左右に振ってビートを刻む、というもう一つの主要な奏法がある。
この場合、楽器全体にかかり続ける遠心力は決して軽くない。

なのに(れん)はそれを羽根団扇(はねうちわ)のように扱った。

それに重量など存在しないように…
そこに重力など介在しないように…

黄色いタンバリンを翻す度に周囲には光の粒が散らばるように、その場の空気が華やかに輝く。

スピーカーからはただのカラオケが流れているだけなのに、
そこに(れん)のタンバリンが鳴っているだけで、すべての楽器がいきいきとした生演奏になった。もうそこはあたかも大ホールのコンサート会場である。大音響が心地よく身体を振動させている。

これは何だ…魔法か…叫び出したいくらい気分が高揚する。

「うっひょーーーーー!!!」
「どぅぬッキャーーーーー!!!」
「サイコーーーー!!!」
というか実際三人は叫んでいた。さらに突然の絶叫にとどまらず踊り始めていた。
そして驚愕のあまり全く歌えていなかった楽曲の最後の大サビに差し掛かる。

三人の踊りながらの大合唱!

「ああああああああ♪」
「ああああああああ♬♬」
「ああああああああ♩♩」

ラストのロングトーンのハモリが決まる。

曲のエンディングと同時に三人はドサッと力尽きてへたり込んだ。
「はぁ…はぁ…江草(えぐさ)さん…今の…何?」
「ふひぃ…ちょっと、超楽しいんですけど!」
「ゼェ…ゼェ…これ、癖になりますな…」

四人はそれからさらに一時間歌いまくり踊り狂った。

帰る頃には足腰に力が入らない程の疲労感に見舞われていたが、
江草(えぐさ)さん、今日めっちゃ楽しかった!」
武本(たけもと)ひあのが頬を輝かせ
「私も!助けてもらって楽しませてもらって…もう江草(えぐさ)さんってサイコー!」
烏山(からすやま)ちとせが続き、そして梶原(かじわら)小鹿(こじか)が言い辛そうに
「…あの、学校違うけど、もし良かったらまた誘ってほしいです!本当に今日はごめんなさい、ひあのもちとせもゴメン!」
と涙目で頭を下げた。

「私も楽しかったです!理由はともかく、誘ってくれてありがとうございました!」
(れん)も笑顔でこう返した。多少皮肉めいているのはご愛敬である。

江草(えぐさ)(れん)、17歳。

胸の高鳴りと恋の予感とデタラメなドキドキ達の隊列を組んでの行進(カーニバル)が始まった。

彼女がタンバリンを手にしたこの日、この瞬間に。





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