7 

文字数 939文字

笹塚(ささづか) ツカサの依頼を整理すると、

"文化祭まで"、という期限付きで吹奏楽部に入部すること、
文化祭の演奏会で吹奏楽部員と混ざって一緒に演奏すること、

である。

文化祭は秋にやることが多いが、杏仲高校もその多数派の一校であった。
開催は来月の中旬、準備できる時間は約一か月だ。
さらに、この校舎を使っての開催は今年が最後になるため、保護者一同も教師側も、是が非でも盛り上げたいと切望している。また生徒たち自身も、最後の文化祭の思い出作りに心が傾いているかもしれない。
が、その一方で部長である笹塚(ささづか) ツカサや吹奏楽部の顧問には多大なプレッシャーがかかっているのも確かであった。

*

(れん)は中庭のベンチに掛け、ここ最近では珍しく一人で昼食をとっていた。武本(たけもと)烏山(からすやま)はそれぞれ用事があるようで今は一緒にいない。
江草(えぐさ)先輩。」
呼ばれて振り向くと男子生徒が二人歩いてきた。
「あ、えっと…、」
そのうちの一人は昨日会ったばかりの知っている顔だ。だが名前が出てこない。
「副部長の七餅(ななもち)です。」
そうだ、七餅(ななもち)(りつ)君だ。割と珍しい苗字と名前だから印象に残っていた。
…覚えてなかったけど…。
「ごめんなさい。」
(れん)は名前を忘れていたことを素直に謝罪した。
「いいえ。あの、譜面をコピーして部室に戻るところでした。丁度先輩を見掛けたので。」
別段七餅(ななもち)に名前を憶えていなかったことを気にした様子はなかった。
「譜面、いま渡してもいいですか?」
七餅(ななもち)の手にはいくつかの楽譜の束があった。そのほとんどが、臨時に入部した(れん)のための譜面だ。ここで渡せたら合理的だろうが、(れん)の両手にはサンドイッチが二つずつあって受け取るにはどうにも恰好が悪い。
「…えっと…、部室で渡しますね。曲の説明もしたいので。」
「ええ…。」
「……。」
何となくムズムズと恥ずかしいような気まずい居心地になった。
そこへ唐突に七餅(ななもち)と一緒にいた男子生徒が飛び込んできた。
比喩ではあるけれど、タイミングも内容も、まさに飛び込んできた、と言うしかない会話の切り出し方だった。

「おれ、同じクラスの古沢(ふるさわ)です。宜しくお願いします。」
七餅(ななもち)のクラスメイトという意味だろう。
ほとんどの学生は全校集会がある日しかネームプレートをつけないが、彼は今も堂々とフルネームを主張していた。

古沢(ふるさわ)正直(まさなお)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み