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文字数 705文字

曲のイントロの中でひとつ、
そう、たったひとつ打っただけだった。
だが、そのたった一回で世界が転じた。
そこに散らばったのは音よりも、むしろ光…。
「…?!
「んナニ!これ!?」
「うほッ!?」
三人は得体の知れない空気の変化に呆気にとられ、歌うのも忘れ立ち尽くした。

(れん)自身も驚いた。
右手の黄色いタンバリンをしげしげと眺めている。
一回叩いただけなのに、お寺の鐘が響き渡るようなインパクトがあった。

右手に持ったタンバリンを左手で叩く、というより右手のタンバリンを左手に打ち付ける。左手首を軽く外側に曲げた時の、親指付け根辺り…、力学上もっとも安定したアタックを得ることが出来るポイントを正確に捉えて。
誰に習った訳でもないのに…。

*

(れん)以外の三人が呆然自失してる間に少し余談を。

打楽器奏者(パーカッショニスト)は頑健な体つきの者が多い。理由はいくつかあるが、ひとつは扱う楽器が大きく重いものが多いからだ。
もうひとつは、これは想像し易いと思うが演奏時の運動量が多い。
そしてもうひとつ挙げるとすれば、打楽器は物理的に腕の重量があるほうがよく鳴る。
簡単にまとめると、大きくて重い楽器を、さらに大きくて重い体で(ぎょ)する、ことが打楽器奏者の適性ということになる。

*

その上で彼女の話に戻ろう。

江草(えぐさ)(れん)の身体はスポーツで鍛えられている。
ムキムキのマッチョの巨女(きょじょ)、という訳ではない。むしろ小柄でちょっと骨太な女子、くらいの見た目である。
だが薄い皮下脂肪の下には密度の高い柔軟な筋肉が蓄えられている。
それは正確な律動を保ち、また制御する機能を既に持っていた。

彼女がこの先、どんな人生を歩むかは分からないが、

断言できる。

江草(えぐさ)(れん)

タンバリンを叩くために生まれて来た娘だ!!
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