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文字数 968文字

武本(たけもと)ひあのと烏山(からすやま)ちとせは中学校が同じで仲も良かった。
小鹿(こじか)はこの二人よりも(本人曰く)ほんの少しだけ勉強が出来なかったので別の高校に進学した。
久しぶりに街で見かけ、昔の余情(よしみ)でいくらか少額でも融通してもらおうと声を掛けたのがいけなかった。

取り巻きーズは小鹿(こじか)がカモを見つけたのだ、と勘違いしてあっと言う間に二人を取り囲み、やれ財布を出せ、やれジャンプしてみろ、やれシャンプー何使ってんだ、等と捲し立てる。

小鹿(こじか)は取り巻きーズのリーダーとして、頭目として、かつての親友二人に高圧的な態度をとる他なく、気付けばカツアゲの真似事みたいなことになっていた。
小鹿(こじか)はその夜、重い自責の念に堪えられず一睡もできなかった。

そしてもう後に退けない。退けずに押し出されたその先で小鹿(こじか)はいろいろな感情に圧し潰され地面に這いつくばり、立ち上がろうとするが上手くいかない、

まるで…、

まるで産まれたての小鹿のように…。

憧れの九条(くじょう)の期待に応えたい…、
後輩や同級に舐められたくない…、
友人や親友を傷つけたくない…、
お金もない、勉強する時間もない…、

梶原(かじわら)さん…どうします?」
後輩の取り巻きーズの一人が耳元でそっと聞いてきた。皆、すっかり腰が引けている。
思考が空回りする…、いやもう思考さえ出来ていない、ただ目が左右を泳ぐだけだった。
――あぁああぁ…、私ったらどうしたらいいの!
もうだめだ、だめだもう…、何でもいい、何か言わなきゃリーダーっぽいことを…
取り敢えず何か言ってから言った流れでなるようになろう…。

ダダンッ!!

梶原(かじわら)小鹿(こじか)はテーブルを両手で力いっぱい叩いた勢いで立ち上がる。ミルクティーのグラスが危うく倒れそうになった。
江草(えぐさ)(れん)!」
立ち上がってみると小鹿(こじか)(れん)の身長はさして違わない。対決する相手が見上げるほどの巨体でないことに、小鹿(こじか)はほんの少し、本当に僅かに安堵した。
「はい。」
呼ばれて(れん)はニッコリと笑顔を返す。

「勝負だ!」

「?!?!?!」
「?!?!おいマジか小鹿!?!?!」
?!こじかまじか!!!」
「…梶原(かじわら)先輩!!!無茶ですよ。」
九条(くじょう)さんが勝てなかったんだぞ!」
取り巻きーズが口々に小鹿(こじか)の暴挙を(たしな)めたり(さと)したり()めたりした。

「今からワ、ワタ、いやアタイと一対一で勝負だ!」

だが小鹿(こじか)は、就任したてのリーダーは、精一杯の不良っぽい虚勢を張るが前言を撤回したりしなかった。



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