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文字数 1,226文字

「…光ねぇ…」
一通りの話を聞き終わった飛田(とびた)先生は、缶コーヒーを飲みながら呟いた。マァ君も先生の車の助手席で缶入りホットのシジミ汁を飲みながら、これまでに得た情報や見解などを話していた。車はマァ君の自宅マンションの近くにある公園の脇に止めてある。
「…光かぁ…」
と、飛田(とびた)先生が先程から頻りに呟いているのは、江草(えぐさ)先輩がタンバリンを叩いたときに発する謎の粒状(つぶじょう)の光のことである。
古沢(ふるさわ)君の仮説だと、この光を見てしまうと身体が勝手に踊り出し、止められなくなってしまうのよね?」
飛田(とびた)先生はマァ君の話から事象を整理している。
「そうです。この光を出してるのはタンバリンじゃなくて、多分むしろ江草(えぐさ)先輩の手だと思います。俺の手を打ったときにも光は出ましたし…」
恐らく江草(えぐさ)先輩は空き缶を叩いても机を叩いても、あの光を出すことが出来るんじゃないだろうか。
「確かに、校内に広まってる噂だと、タンバリンが光ったように見えた、と言うのもあったような気がするわね。」
飛田(とびた)先生が情報の細部を補強するように付け加えた。
「で俺、そのときに、光ったときに目を閉じたんですよ、なんかヤバイなって思って。そしたら眩暈がして…」
「倒れて保健室に担ぎ込まれたのね。」
飛田(とびた)先生がかつてのマァ君の顛末を結んだ。
「で、江草(えぐさ)さんはどうなの?」
「もう最高ですよ!」
「そうじゃなくて…」
マァ君の即答に苦笑、いや失笑しながらも飛田(とびた)先生は続けた。
江草(えぐさ)さんはこの現象をどう思ってるのかしら?」
そう、マァ君も真っ先にそこは考えた。
「そもそもタンバリンを始めたのも、偶然カラオケでやってみたら案外上手く出来た、くらいのきっかけだったみたいです。」
マァ君は順を追って話すと
「で、その何だか知らないけど凄く盛り上がって踊りまくって楽しくなる、というタンバリンの効果に目を付けたのが吹奏楽部部長の笹塚(ささづか) さんよね。」
飛田(とびた)先生が続きを引き受け、
「そうです。最後の文化祭での演奏を盛り上げるために、江草(えぐさ)先輩のタンバリンが必要だ、とふんだんですね。」
マァ君が校内の噂や周辺情報から成り行きを時系列でまとめ、そしてさらに続ける…
「で、ここが大事なんですけど、恐らく江草(えぐさ)先輩はただ純粋に頼まれてるからやってるだけで、みんなを踊らせてやろうとしてる訳じゃないと思うんです。あの人はそんなこと考えたりしない。」
「その根拠は?」
「可愛いからです!」
「……」
マァ君の即答を聞いて先生は絶句しているようだ。
"二の腕美人に悪人無し"とは、マァ君の持論である。
それに、このタンバリンでみんな踊っちゃう謎現象も、悪事か、と問われればまだ何とも言いきれない。
…でも、
「でも念のため、確認しておく必要がありますね。」
先入観や過信は真実を遠ざける。
マァ君はそう先生に言った。
「もう遅いわね。明日の朝は全校集会だしそろそろ解散にしましょう。」
「はい、送って頂いてありがとうございました。先生、また明日ー。」
マァ君は車を降り自宅へ向かい歩いた。
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