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文字数 1,040文字

「ほうれん草、好きなのね古沢(ふるさわ)君。」
目の前で古沢(ふるさわ)君が3皿目のソテーを食べ終えようとしている。
「ええ、でもベーコンのほうが好きです!先生、俺、ベーコンとほうれん草で出来ています。」
彼が「休みたい」というので何処に行きたいか尋ねたところ、お腹が空いたと言うので市道沿いのファミレスに来た。
私は食欲が湧かず、ドリンクバーだけを注文し、この時間を使って古沢(ふるさわ)君に私自身が得た情報を話すことにした。
「私、タンバラーになってしまった生徒達と一緒に踊ったりしていて気が付いたことがあるのよ。」
「その次はキャベツですね。味付けが塩こんぶとゴマ油とかだともうほぼ主食化してますよね。アレ…俺、モンシロチョウの幼虫だっけ…みたいな。」
衝撃的な出来事が身に起き、強いストレスを受けたのだろう、彼は今会話が上手く出来ない状態のようだ。が、こういうときでも彼は相手の言ったことを理解出来ていることが多い。噛み合わない会話の中で、彼は目まぐるしく思考している。
私は構わずに続けた。
「タンバラー達の挙動…叫び声や手足の動きも含めて、ずっと私、観察していたの。」
「ラーメンのスープとか全然手を止めらんなくて、結局全部飲んじゃうんですよ。親にめっちゃ怒られるんですよ。お前そんなことしてると禿()げるよ?って。」
「タンバラーの動きってね、そのとき演奏されている内容と関係してるみたいなの。ホラ、あのとき、校歌を演奏してたでしょ?でね、校歌の歌詞に合わせて踊っているように見えたのよ。」
「…、」
ずっと好き勝手に喋り続けていた古沢(ふるさわ)君がピタとフォークを止め黙り込んだ。意識の混濁が落ち着き、目の前の出来事に注意が払える状態に戻ってくる兆しである。
「…手を繋ぐ…山並みの…♪」
そして古沢(ふるさわ)君は口の中だけで小さく歌い始めた。歌詞の一語一語を確かめるように。
「行く水に…手のひら…かざし…♪」
あの時に体育館で見たタンバラーの踊りを思い出しながら歌詞を次々と反芻していく。
「…本当ですね」
「でしょ!」
私の仮説が正しければ、クロックライトと名付けたあの謎の光で操られたタンバラー達は、その場にある最も支配的な言語情報に動かされていることになる。
「だとすると先生、全ての謎が解けました。」
古沢(ふるさわ)君は私に自信に満ちた笑顔を向けた。ほうれん草が前歯に引っかかっていたが、後でそれとなく言えばいいだろう。
「分かったのね。」
「ええ。玉木(たまき)が、文化祭当日どのようにして殺害を企てているのかがね!」

殺害?!…いつから復讐が殺害に…

まぁいい…とりあえず聞こう…




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