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文字数 1,307文字

マァ君は目測する。
江草(えぐさ)先輩が乗っているお神輿(みこし)状の演奏ユニットまで50メートルくらい。それに乗り、タンバリンを叩く江草(えぐさ)先輩は地上からだいたい2メートル…といったところ…。
神輿(みこし)まで首尾よく近づけても、あの高さではそれをよじ登ることは難しいだろう。

でも…くどいようだが、こうなったときのために九条(くじょう)さんを選んだのだ。
九条(くじょう)さんにおぶられている状態のマァ君は彼女の背をのぼり足を肩にかけた。九条(くじょう)さんはマァ君の両足をしっかりとわきに(かか)え固定してくれた。

見よ!この男子を肩車してもまったくぐらつかない九条(くじょう)さんの強靭な体幹を!
高くなった視点からマァ君はタンバラーの群れ全体を冷静に見渡した。あまり時間をかけられない。立ち止まればすぐにまた囲まれてしまう。

が、その(ほころ)びはすぐに見つけた!
九条(くじょう)さん!二時の方向に進んでください!」
「わかった!」
マァ君が指示した方向に九条(くじょう)さんが駆け出した。
「あ、やっぱ二時半、いや二時二十六分の方向です!緩いカーブでこいつらを回り込む感じで!」
「うん!」
この方向の示し方はアナログ時計の短針が向く方を伝えるやり方だが、もちろん二時半と言われて長針の指す方向へ全速力で引き返す、等と言うことはなかった。
タンバラーはどういう訳か渦状に動いている。
玉木(たまき)のオリジナルの歌詞がそういう指示を含んでいるのかもしれない。
兎に角これはタンバラーの動きが予測しやすい。
同じ方向に回ればいいのだ。
渦に巻かれるように逃げれば、中心部にいる江草(えぐさ)先輩の乗った神輿(みこし)に接近できるはずだ。

そしてその予想はドンピシャだった。
江草(えぐさ)先輩をのせた神輿(みこし)を目前5メートルに捉えた。
だがそこに…

「ぬふふふぉぉお!させるかぁーーー!!!」

玉木(たまき)が立ちふさがった。
生徒5、6人に担がれている。組体操でもこんなのは見たことがないが、全長3メートル越えの化け物になって襲い掛かってきた!

*

サッちゃんは正直(まさなお)の言いつけ通りに走った。彼は男子なのにすごく軽いから、これならどれだけ走っても平気そうだ。やがて踊り狂ってる人達の隊列が途切れてお神輿の目前まで迫った。

サッちゃんこの期に及んでまた真相に辿り着いてしまった。正直(まさなお)は賢い。今この場でどんなことが起きても、多分それはすべて彼の想定内だろう。

「ぬふふふぉぉお!させるかぁーーー!!!」

だから、この組体操か…チアリーディングか…得体のしれない合体を遂げたあの歌うおじさんが突進してくるのも、恐らく正直(まさなお)は初めから知ってたんだ…。

九条(くじょう)さん!!
正直(まさなお)はサッちゃんの肩に足をのせた。ご丁寧に靴を脱ぎ捨てて…。
そして立ち上がろうとしている、バランスをとっている暇などない、冴えてるサッちゃんは瞬時に彼の意図を理解した。
それにしても…いつになったら名前で呼んでくれるんだろう…。
頭の隅で何故かそんなことを考えてしまった。
だって、サッちゃんにとってはさして難しくはないんだ、余裕なんだ。こんな軽い子を5メートル飛ばすくらい。

サッちゃんは正直(まさなお)の両の足首をつかみ、そのまま手首をひょいと返し彼の足の裏と手の裏を合わせるように構えた。

膝を曲げ、背を丸め、全身のバネを貯める…。

サッちゃんの手のひらの上で正直(まさなお)も身を屈め跳躍に備えた。




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