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文字数 1,141文字

そして結局ドキドキしてマァ君ほぼ一睡も出来なかった。とはいっても布団の中でふと意識が飛ぶような感覚があったのを数度覚えてるから体感よりは寝れていたのかもしれない。
どの町に住むときもマァ君()は引っ越しが多いから、マァ君の通学や父さんの通勤に便利なアパートやマンションを選んでいる。
杏仲(あんなか)高校もマァ君()から遠くないので徒歩で通学する。
江草(えぐさ)先輩は自転車通学、ちょっと離れた村から峠を越えてやってくる。
吹奏楽部の朝練は自主的に参加する生徒だけらしいが、真面目な先輩は毎朝出ている。
先程、多分部長の女子生徒が通りかかった。部室の鍵を開けるのだろう。
朝練が開始されるという5分前である。
開始といってもそれは部室が使える時間になる、ということなのでこの時点から部室にいる生徒は少ない。

「ぬふぁ?!
自転車を引く江草(えぐさ)先輩を見つけた!
そのときマァ君は怪しまれないように物陰に潜んでいたが、あまり巧みに隠れると逆に相手を怖がらせてしまうかもしれないので物陰から顔だけ出して適度に見つかるようにしておいた。それが功を奏したのかもしれない。マァ君と目があった江草(えぐさ)先輩は小さな悲鳴を上げた。


「お早う御座います江草(えぐさ)先輩。」

「…えっと…、古川君?」
「はい!」
良い返事をしたが古川ではなく古沢だ。でも大した問題ではない。
「あの、実はちょっとお話がありまして。」
「何ですか?私、これから…」
「朝練ですよね、手短(てみじか)にします、30分くらい。」
「30分は手短(てみじか)ではないですよ?」
「では頑張って25分で!」
「…こういうやり取り苦手なのでもう話進めてください。」

マァ君は昨晩考えたことを江草(えぐさ)先輩に話した。

「ね?普通に考えたら変ですよね?先輩がタンバリンを叩くとその場にいた人が全員踊り出してしまうなんて…。」
「ええ、確かに最初は驚きましたけど、そういうものなのかなと…。」
んなワケあるかい!マァ君は心の中だけで盛大に突っ込んだ。
何と、この点について先輩は全く頓着していなかった。
「あの、これは僕の仮説なんですけど、先輩にはそういう特別な能力があるのです。」
「…はぁ…」
演奏で人を踊らせる能力…。
こういう不出来なファンタジー設定がマァ君は好きだが、先輩にはただの中二思考に見えるのだろう、明らかに困惑していた。だが、マァ君は続けた。
「なので、それを実証するための実験や検証をしたいんです。」
「…はぁ…具体的には?」
「まず触らせてください!」
先輩は恥ずかしかったのか、眉根をよせ、いやもはや軽く睨むような眼差しになって後ずさりした。
「手を。」
「手?手ですか?」
先輩は自らの掌に目をやった。
「…駄目ですかね…?」
さすがのマァ君もおずおずと尋ねるしかなかった。
身体の中で、手ほどセンシティブな部分はない。
「まあ、手なら。」

?!マジっすか!!
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