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私はすぐにでも古沢(ふるさわ)君を助けだすべく後を追いたかった。が、それは出来ない。体育館中に生徒達が倒れている。全く休み無く数十分踊り続けたのだ。体力の消耗がピークに達し、立っていられないのだろう。

ーー先ずこの子たちを何とかしなくっちゃ…。

私は近くに倒れている生徒から順番に声をかけていった。
動けそうな生徒は水道まで連れていき水を飲ませ、動くことが難しい生徒には災害用の備蓄の中から水や経口補水液、ゼリー状の栄養剤を手渡した。
意識がはっきりしている教員達には、生徒たちの引率を任せた。
本当に幸いなことに、救急車の出動が必要そうな生徒はいなかった。

何とか生徒達の応急処置が済んだ。200名近い生徒と40名ほどの教員や事務員が皆、教室なり職員室なりそれぞれの持ち場に戻っていったが、ひと息つく間もなく

ーーよし!古沢君を追いかけよう!!

と私は思った。随分時間が経ってしまった。
吹奏楽部の生徒達、すごい剣幕だったから古沢(ふるさわ)君が気がかりだ…。
私は古沢(ふるさわ)君が連行されていった可能性が一番大きい第二音楽室に走った。

走りながら幾つか気が付いた。
ほぼ全校生徒に極度の体力消耗や脱水症状の応急的な措置を施したが、吹奏楽部の生徒は1人も
いなかった。でもまあこれは至極当然のことだ。吹奏楽部員は演奏しているからタンバリンを聞いても踊っていられないのだ。でもよく考えると不思議ではないか…。
演奏する、という役割を放棄して踊り狂ってしまう生徒が1人くらいいても良さそうなのに、私が確認した限りでは倒れた生徒の中に吹奏楽部員はいなかった。

それは一体どういうことなのだろうかぁ…
タンバリンの力である程度その制御下にあるもの、つまりタンバラーの行動を管理できる、ということなのだろうか…。

もうひとつ気付いたことがある。
それは、踊り狂っていた生徒達に踊り狂っていた当時の記憶がきちんとある、ということだ。目が覚めてから「私ってば一体なにをしていたの?」などという類の反応をする生徒はいなかった。皆、歌って踊ってしまっていた、止められなかった、とても楽しかった、興奮した、などというような内容のことを言っていた。

タンバリンは、というより江草(えぐさ)さんの手から放たれるクロックライトは、行動ではなく、感情をコントロールする力をもっているのかもしれない。

パンッ!

第二音楽室の方から乾いた音が聞こえた。
「…銃声?…まさか!!!」
私は声に思わず出した不吉な予感に戦慄し、だが足は第二音楽室に向かう渡り廊下を駆けていた。




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