第33話 山田由紀子の混乱

文字数 1,143文字

由紀子(山田保の娘、山田剛士の孫娘でもある)は、混乱している。
(父保の不倫や、妾を囲っていたことは、とっくに知っていた)
「そんなことは、お父様に始まったことではない」
「おじい様も、たくさんの妾がいたもの」
「華蓮だって、おじい様と愛人の森本華純の子」

「それに妾をつくることは、千二百年を超える山田家の伝統なの」
「本家に子供が出来なくての血筋が絶えそうになれば、妾の子を養子に取って、継がせる」
「山田家だけでは、ないよ」
「天皇家も、公家も武家も、全てその方式で血筋と社会の秩序を保って来た」
「そうして高貴で富裕、権力がある家だけが生き残って来た」
「それが当たり前だったのが、日本社会の歴史」
「淫乱とか淫蕩とは別の次元の話」

そうかと言って、母は「離婚を持ち出して」実家に帰ってしまった。
実は由紀子も、母に連れていかれそうになった。
でも、断った。
「それをやって、慰謝料もらうだけでしょ?」
「馬鹿馬鹿しい、山田屋敷と聖トマス学園を手離すほうが、大損よ」
「滝口の思うつぼよ、それがわからないの?」
「自分が捨てられたからと言って、山田家の昔からの歴史を理解していないのは、お母様でしょ?」
「何を清廉潔白ぶるの?馬鹿じゃないの?」
(由紀子は、母を見捨て、聖トマス学園と山田屋敷に残ることを選んだ)

ただ、由紀子は、母よりも(聖トマス学園と山田屋敷よりも)、華蓮に逢いたくて仕方がない。
音楽を続けるかどうかは、どうでもいい。
「とにかく逢いたい」
「逢って、抱きたい」
「この前は、香苗が邪魔だった」
「一人だけで、華蓮をメチャクチャに抱きたい」
「私も、華蓮にメチャクチャにされたい」

確かに「近親相姦」と思う。
でも、気にならない。
「母が違えば結婚できた」、そんな古代の妹背の関係もある。
もし、子供ができたとしても、喜ばしいだけ。
山田家は、金には困らないし、乳母役は、何人でもいる。

「私と華蓮の子が、山田家と聖トマスを継いでも、かまわない」
「むしろ、ベストだ」
「まかり間違っても、分家の香苗や春香には、産ませられない」

由紀子は、窓の外を見た。
「寒空だなあ」
「星もきれいだ」
「華蓮、何をしているの?」
「音楽をやめて、本を読むだけなの?」

華蓮を抱いた時のことを思い出した。
「あの喘ぎ声に興奮した」
「お人形を犯していた」
「やばいくらいに、感じた」

それを思い出したら、身体が火照って来た。
「眠れないよ、華蓮」
「どうしてくれるの?」
「こんな我慢だけの暮らしは嫌」

由紀子は、老執事の大塚を呼んだ。
「どうしても、華蓮を抱きたいの」
「香苗に、知られたくない」
「とにかく、その準備をして」
「そうでないと、眠れない」

老執事は、表情を変えず、頷いた。
「かしこまりました、明日までに、段取りをつけます」

老執事は、静かに由紀子の部屋を去った。
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