第23話 叔母(母の姉 森本華代子)

文字数 885文字

病室のドアが開き、華蓮が見慣れた顏が入って来た。
叔母で、母華純の姉、森本華代子である。(森本病院の院長でもある)

森本華代子は、娘美代子と少し小声で話し、華蓮の手を握った。
「かなり辛かった?」
「でも、助けられてよかった」
「ごめんね、しっかり守れなくて」(華代子の目が潤んだ)

華蓮も、また潤んだ。
「相談する心の余裕もなくて」
「迷惑かけられない、と思って」

華代子は、泣きながら首を横に振った。
「そんなこと言わないでよ」
「もっと頼って欲しかった」
「もう、これからは、全て任せて」
「あんな下品な山田には戻さないから」
「森本家として、我慢できないの」

華蓮は、身体を起こした。
「高校も変えるの?」

華代子は、頷いた。
「K大学の付属高校」
「理事長が懇意で、了承を取りました」
「既に制服の準備も出来ています」
「体調が回復したら、私の家から通いなさい」

美代子が、笑顔になった。
「華蓮君と一緒に、ご飯食べたいなと、ずっと思っていたの」
「可愛い弟が出来たよ」

華蓮が頷くと、華代子が聞いた。
「ねえ、華蓮君、ピアノを買おうか?」
「もし、音楽を続けるなら、買い替えるよ」
「お金の心配はしなくてかまわないから」

華蓮は、首を横に振った。
「ピアノは、母さんに習っただけ」
「僕が望んで、弾くことはないよ」
「できれば、本を読みたい」
「普通の学生で、普通の仕事に就きたい」

華代子は、頷いた。
「弾きたくなったら、いつでも言ってね」
「華蓮君のピアノ、好きだから」

美代子は、少し残念な顏。
「新しいピアノで聴きたかったな」
「でも、今のピアノで、連弾してくれる?」
「それも、楽しみなの」

華蓮は、ようやく、少し笑った。
「美代子姉さんと連弾?」
「子供の時以来だね」
「ワクワクして来る」

美代子は、ポケットから、新品のスマホを取り出した。
「山田にスマホ置いて来たでしょ?」
「もう、使いたくないだろうから」
「新品のスマホ、番号もアドレスも違う」

華代子が、話をまとめた。
「病院の顧問弁護士にも、話しました」
「細かな変更は、全て対応させます」
「華蓮君は、今後一切、山田家と関係を断てます」

華蓮は、潤んだ目で、新しいスマホを握りしめていた。
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