第20話 聖トマス学園の動揺

文字数 1,215文字

学園長山田剛士は、早朝、授業開始前に、聖トマス学園全生徒、全教師を学園講堂に招集した。
表情も厳しく、全員に「華蓮の突然の失踪」を通知し、「探索への協力」を願い出た。

「森本華蓮は、本学園の、いや、日本の音楽界の将来を担う逸材であります」
「詳しい事情は、承知しておりませんが、スマホも持たず、全く連絡が取れません」
「既に、警察には、捜索願を提出いたしました」
「生徒諸君ならびに、教師各位におかれましても、情報があれば、即時提供を願うしだいであります」

講堂に集められた生徒と教師にも、動揺が広がった。

「え?マジ?」
「観月音楽会で、すごい演奏した子だよね」
「うん、メチャ可愛い子だよ」
「以前、由紀子様と香苗様と歩いているのを見たことあるけど?」
「一緒に学園長の屋敷に住んでいるって、噂だよ」
「親戚なのかな、確か、由紀子様と香苗様は血縁だしね」
「山田屋敷で、何か、あったのかな?」
「・・・って・・・あれ?マジ?」
「まさか、近親相姦とか?」
「淫乱淫蕩の山田家・・・あり得るかも」
「それを嫌がって逃げた?」
「あの子、ウブな感じだよね」
「年上の女が、美少年を犯すってあるよ」
「事実なら、学園の大スキャンダルだよ」
「えーーー?やだ」
「私も狙っていたのに」

文学科の滝口春香も動揺した。
「そうか・・・やはり、山田屋敷で何かあったのか」
「そう言えば、由紀子から電話が来て、嫌そうな顏をしていたもの」

滝口春香は、全学園集会の後、由紀子と香苗に、詰め寄った。
「ねえ!いったい何があったの?」
「何か、華蓮君が、嫌がるような、困るようなことがあったの?」
「それとも、苛めたの?」

由紀子は、横を向いた。
「知らないわよ!」
「華蓮、可愛いから、愛でただけだよ」
「それのどこが、悪いの?」

香苗は、逆ギレした。
「分家の分際で、何を偉そうに!」
「お屋敷で夕飯も食べないで、夜遊びして来るから、叱ったの」
「しつけよ、当たり前じゃない」

春香は、由紀子と香苗の「目」から、「よからぬ事実」を察した。
(カマをかけた)
「マジに汚らわしい女たちね」
「愛でる?叱る?」
「淫欲にまかせて、華蓮を、もて遊んだだけでしょ?」
「華蓮は、あなたたちのおもちゃでも、ペットでもないのよ?」
「あの真面目で繊細な華蓮が、そんなことされて、どうなるか、考えられなかったの?」
「下手すれば、死んでいるかもね」
(由紀子と香苗の「目」が、完全に泳いだ)
(その顔も一瞬赤く、そして蒼くなった)

春香は、すっかりたじろいだ由紀子と香苗を、さらに責めた。
「もう、あなたたちには、華蓮に指一本触れさせない」
「あなたたちは、華蓮の将来にとって、百害あって一利なしよ」
「あなたたちでは、繊細な華蓮の扱いは無理」
「ただ、淫乱で無神経で鈍感なだけの、あなたたちでは、華蓮の苦しみを救えないの」
「だいたい、華蓮は、あなたたちの前で、笑顔を見せないと思うよ」

最後の言葉が「図星」だった。
由紀子と香苗は、顏をおおって泣き出してしまった。
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