第36話 老執事大塚の探知

文字数 1,133文字

執事大塚は、昭和五十年代から山田屋敷に仕えている。
現当主山田剛士は若い時から、そして追放された長男保は幼少時から、その性格、行状を知り抜いている。

大塚自身の性格は、極めて慎重。
そのため、山田屋敷の全部屋に監視カメラを極秘に設置している。
また、山田屋敷の管理だけではない。
長男保の愛人の部屋にも、盗聴器と監視カメラを設置し、日々、確認を行っている。

そのため、最近発生した、由紀子と香苗が華蓮を襲ったこと、山田保が暗殺者ザイードに出した指示も、熟知している。


さて、執事大塚は、元聖トマス学園秘書山岡沙耶の不審死について、馴染の刑事から情報を得た。
「中東の希少な毒を使っている」
「あの地域には、古代から暗殺者を養成する機関があって、そこの関係者のみが、使用する」

執事大塚は、その情報により、暗殺者ザイードが動き始めた、と理解した。
馴染の刑事には、山田保と暗殺者ザイードの「交渉動画」を、内密に提供。
残された「暗殺対象者の警護」を依頼した。
(「内密」で、刑事の上司に、高額な金を山田屋敷の機密費から支出し、渡した) 
(警察当局への依頼だけではない)
(山田家子飼いの極道組織も、「暗殺対象者」の尾行と警護につけた)

警護の段取りがついたところで、山田剛士に全てを打ち明けた。
「森本華蓮、香苗様、御大の身が危険です」
「すでに警護はつけましたが、ザイードの始末がつくまで、不用意な行動はお控え願います」

山田剛士は、苦々しい顔で報告を聞いた。
「あの馬鹿息子が・・・」
「力も才能もなく、弱者を傷付けることしかできない」
「まさか、人殺しに加担するとは」
「わかった、どんな手をつかってもいい、とにかく犯行を止めろ」

老執事大塚は、山田保の今後についても、相談をかけた。
「このまま、何もしないと、副学園長は殺人教唆で逮捕、有罪ですが」
「また、工作を行いますか?」
(老執事大塚は、かつて山田剛士が、華蓮の父を極道を使い殺害し、議員に金を渡し、処理したこと、を知っている)

山田剛士は、苦し気に頷いた。
「金で済ませるしかない」
「議員に二億の献金」
「マスコミ各社には、広告を出す」
「この学園の名誉を傷つけるわけにはいかない」

老執事は、再び山田剛士に確認した。
「由紀子様と、香苗様が、華蓮を欲しがっております」
「止めますか?」
「下手をすると、欲しがるものの、争いまで起きます」

山田剛士は、今回は笑った。
「華蓮と香苗は、実は我が子で」
「由紀子は、孫か」
「どうでもいい、じゃれたいだけだ」
「まあ、千年を超える山田家の歴史で、いくらでも、そんなことが、あった」
「今、止めたところで、やがては、またじゃれ合う」
「好きなようにさせろ、お前はザイードを止めろ」

老執事大塚は、深く頭を下げ、静かに山田剛士の部屋を出た。

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