第5話学園長屋敷での夜食

文字数 1,011文字

観月音楽会での演奏を終えた森本華蓮は、山田由紀子と杉本香苗とともに、学園長山田剛士の豪壮な屋敷に入った。

玄関に老執事大塚が立っている。
「演奏、お疲れさまでした」
「食事の用意が出来ておりますので、ご案内いたします」

山田由紀子は、何の反応もなく、歩き出す。
(杉本香苗と森本華蓮は、軽く頭を下げ、執事大塚の後を歩いた)

20人は入る豪華な食堂だった。
長大で立派な一枚板のテーブルと、芸術品そのものの椅子。
壁には、ルノワールの絵画が多く飾られている。

すでに、学園長山田剛士と、息子の専務保(由紀子の父)は、席に着いていた。
(山田剛士は上機嫌でワインを飲んでいる)
(保は、少し疲れ顔になっている)

子供たち三人が席に着くと、山田剛士は、ますます上機嫌。
「由紀子、素晴らしい月光だったぞ」
「婿希望者が、今夜だけで6人、全て名門名家のご子息」
「これで、この山田家も、学園も安泰というものだ」
「文科相も、喜んでいた」
(由紀子は、実に嫌そうな顔、祖父剛士から、顏をそむけた)

続いて剛士は、杉本香苗に声をかけた。
「上野の音大の学長が、来てくれとな」
「推薦状も自ら書くと約束した」
「コンクールでも、便宜を図るそうだ」
「めでたいなあ、これで次のコンクールも一位だ」

香苗は、愛らしい顏で、返事。
「おじい様、いつも、ありがとうございます」
「また、明日から練習に励みます」
(剛士は、ますます上機嫌、ワインを飲みほした)

剛士の目は森本華蓮に向いた。
実にやさしい口調で、語り掛けた。
「華蓮や、ありがとうな」
「でもな、お前なら、やってくれると思っていた」
「だから、大トリを任せた」
(剛士は、ここで涙ぐんだ)
「実に、天使の調べだった」
「お前は、私の誇りだ」
(保は、苦虫を嚙み潰したような表情、華蓮を見ない)

華蓮は、色白の顏を少し赤く染め、剛士の顏を見た。
「学園長様」
(剛士は、その言い方が辛いのか、目をおおった)
「次から、大トリだけは、困ります」
「僕は、まだまだです、何の実績もありません」
「もっと優れた方がおりますので」
(剛士は、首を横に振った)

黙っていた保が、口を開いた。
「ともあれ、全員、素晴らしい演奏でした」
「食事が冷めないうちに、食べようではないですか」

シュンとなっていた剛士の笑顔が復活した。
「おお、そうだな」
「若い子は、どんどん食べてくれ」
「食は健康と成長の源だ」

ようやく、全員の食事が始まった。
(由紀子と香苗は、華蓮のひどい疲れ顔が気になっていた)
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