第14話 由紀子の思い

文字数 1,286文字

「また、嫌われたのかな」
食事を終え、由紀子は自分の部屋に入った。
まだ夏の熱気がこもった部屋は、息が詰まるような重苦しさ。
エアコンは、つけたくなかった。

「自然の風がいい」

由紀子は、窓を開けた。

今夜も、大きな月が、浮かんでいる。
少し湿り気のある風が吹いている。
広壮な屋敷の、美しい木々も、そよそよと揺れている。
「虫も鳴き出している」

由紀子は、ため息をついた。
もともと、暑い夏は嫌いだった。
元気ハツラツのクラスメイトに誘われても、海に行くことはない。
室内のプールにも、行かない。
「ピアノのレッスン」を理由に、常に断って来た。

しかし、「暑い夏が嫌い」と、「ピアノのレッスン」以上に、「クラスメイトとの夏の遊び」を拒否させた理由があった。
「可愛い華蓮を手離したくない」
「つかまえて居なければ、すぐに逃げ出す」
とにかく、華蓮を自分に縛り付けたくて、仕方がないのである。

「華蓮が、この屋敷に住む」と、祖父の剛士に聴いた時は、うれしくて仕方がなかった。
理由は、華蓮の母(華純)が、病死して、「華蓮の身元保証」を頼まれた、と聞いた。
(夕食の時に、祖父剛士が、「血のつながりもあることだから」と、言い切った)
(父保は、渋い顔をいていた)

再会した華蓮は、本当に可愛かった。
由紀子は、自分から華蓮に抱きついた。
「逢いたかった!華蓮ちゃん!」
「お母さま・・・残念だけど」
「今夜から、もう大丈夫」
「私に任せて、何でも頼って」
(まだ小ぶりな胸で、可愛い華蓮の顏を包んだ)
(華蓮が苦しがって、ジタバタするのも、うれしかった)
(従妹の香苗が、悔しそうな顔をしているのも、楽しかった)

華蓮が家に住むようになってから、何かにつけて世話を焼いた。
着替えも、お風呂も平気だった。
自分の身体には自信なかったけれど、それ以上に、裸の華蓮がきれいで可愛かった。
(香苗の豊胸は、憎らしかった)

時々、「ツンデレ」になる華蓮も好きだ。
「おチビさんのくせに」と言うと、華蓮は、プイと横を向く。
その顔も可愛い。
いろいろいじって、ベッドに押し倒した時もある。
「何でそんなことするの?」
泣き顔の華蓮は、可愛いくて美しい。
大きな目、長いまつ毛を濡らして、お人形みたいだ。
「欲しくなった」と小さな声で言ったら、華蓮は身を固くした。
「痴女なの?魔女なの?」
だから、もっと責めた。
「どこで、そんな言葉覚えたの?」
(真っ赤になる華蓮も、可愛かった)

「血のつながり」の「細かいこと」は、何となく、両親のヒソヒソ話を立ち聞きして、知った。
「親父と、華純さんの、昔からの関係だよ」
「華蓮君のお父さんは、それを知った直後に」
「親父は、警察には自殺扱いとするように、議員に根回ししたようだ」
「おじい様は、止められない、香苗さんだって」
「今さら、表沙汰にしても、みんなが泣くだけだ」
「学園全体も、生徒も困る」

由紀子も、そうするしかない、と思った。
ただ、繊細な華蓮が知ったら、どうなるのか、それが怖かった。

窓から入って来る風が冷たくなって来た。
「華蓮を抱くかな、無理やりでもいいや」

由紀子は、ベランダに出た、(ベランダ伝いに、華蓮の部屋に忍び込む計画である)
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