第1話学園主催音楽会

文字数 756文字

初秋の少し冷たい風が吹き始めている。
空を見上げれば、美しい月がゆったりと浮かぶ。
都内有数(つまり日本でもトップクラス)の進学校私立聖トマス学園では、山田剛士学園長主催の観月音楽会が開かれている。
演奏者は、聖トマス学園が誇る音楽部員。
壮麗な学園の野外ホールには、聴衆として、聖トマス学園の学生はもとより、財政豊かな名門校らしく政財界の大物、著名な芸術家、身分の高い父兄たちで満員である。

盛況を極めた音楽会も残すところ、三曲となった。
その一曲目は、ベートーヴェンの名曲「月光ソナタ」。
演奏者は聖トマス学園の学園長の孫娘、山田由紀子(三年生)。
怜悧な美貌でピアノに向かい、名月に捧げ、一音一音を儚げに奏で続ける。

「さすがは由紀子様、お美しいこと」
「おじい様の学園長も、ご満悦でしょうね」
「由紀子様も将来は、この名門学園の後を継ぐのですから」
「演奏会の後は、婿選びでしょうか、おめでたいことで」

様々なヒソヒソ声は、途絶えることなく続いた。

続いて登場して来たのは、学園長の外孫、杉本香苗(二年生)
曲は、これもドビュッシーの名曲「アラベスク第一番」。
聖トマス学園一の美少女の奏でる繊細にして典雅な響きは、名月も涙するのか、その美顔に、小さな雲がかかる。

「由紀子様も素晴らしかったけれど、香苗様は別格」
「あの可愛らしさに加えて、都内学生コンクール一位ですもの」
「お友だちになるとしたら、由紀子様より香苗様かしら、親しみやすいもの」
「そうね、由紀子様だと、格上過ぎよね」
「でも・・・香苗様の本当のお父様は、学園長との噂ご存知?」
「え・・・でも・・・山田一族は乱脈よね、何があってもおかしくない」

「アラベスク第一番」が終わり、人々が学園長を見ると、至極満足の笑顔。
ただ、学園長の息子にして、専務理事の保は、物憂げに顏を伏せている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み