第32話 山田保は復讐の準備

文字数 1,167文字

聖トマス学園の理事を解任された山田保は、妻からも離婚を突き付けられ、逃げるように山田屋敷を出た。(家出である)
逃げ込んだ先は、囲っている女、仁美(元聖トマス学園会計課職員)のマンションである。

ただ、逃げ込まれた仁美も、いい顔をしなかった。
「また、秘書に手を出したの?」
「しかも、騙されて、下手を打って、マジに馬鹿!
「あなたも、山田剛士と同じ、淫蕩で汚らしい」
「これから収入もないよね、しかも離婚慰謝料も取られる」
「私も嫌よ!あんたなんて」
「聖トマス学園の次期学園長だから、相手になったの」
「それがなければ、さっさと手切れ金をよこして、すぐに出て行くから」
「手切れ金をよこさなかったら、奥様とマスコミに言うわよ」

山田保は、仁美を止めることは出来なかった。
聖トマス学園から内密に横領していた金(企業協力金:数億)から三千万円を「手切れ金」にして渡した。(仁美は、山田保の頬を張り、唾を吐いて、去って行った)

ただ、山田保にとって、仁美がいなくなることは、実は好都合だった。
(「三千万程度」でいなくなるとも、読んでいた)
それ以上に、やりたいこと、秘密裡に、やるべきことがあった。
つまり、自分をこんな目に遭わせた相手への復讐である。
不倫騒動で追い出された以上、公然との復讐は考えづらかった。
山田保自身が、公然と復讐を出来ないのだから、誰か「秘密のプロ」を使うことを考えた。
(その意味で、仁美がいないので、安心してプロと交渉が出来たのである)

山田保が連絡を取ったのは、中東系ヤクザのザイード。
(ナイフを使った暗殺、あるいは中東産の薬物中毒を仕掛けるプロ)
(以前から、聖トマス学園内の生徒間の妊娠の内密中絶を頼んでいた)

ザイードは、すぐに飛んで来た。
(見た目は、日本人と、ほとんど変わらない、痩身で精悍な風貌)
「保先生、またですか?高くつきますよ」
保は、苦々しい顔。
「足元見るな、今まで使ってやった恩を考えろ」

ザイードは横を向いた。
「今までは、副学園長で次期学園長だから、値引きしたんです」
「今の立場では、知りませんよ」
「何かあれば、剛士学園長が、あなたの指示と、気付きますしね」

保は、懸命に怒りをこらえた。
「今までの倍払う、それでいいか?」

ザイードは、ようやく保の顏を見た。
「で、誰を?」

保の目が光った。
「どんな手を使ってもいい」
「まず、元秘書の山岡沙耶」
「森本華蓮、杉本香苗、滝口春香」
「それから、滝口春雄と・・・」
「山田剛士まで、殺れ」

ザイードの顏が変わった。
「マジですか?ヤバいですよ」

山田保は、首を横に振った。
「金は・・・手付で一億出す」
「一人あたり二千万出す」

ザイードは、途端に態度を変えた。
「殺し方は、お任せください」
「決して、保さんからの指示と、悟られないように、殺します」
ザイードは、不敵な笑みを浮かべ、マンションから姿を消した。
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