第12話 華蓮と春香①

文字数 1,017文字

「きれいなカフェね」
席に着くなり、春香は笑顔に戻った。
華蓮も、少し笑った。
「文房具が好きで、通っていたら、気が付いた」
「通い始めて一年後にね」

春香は、華蓮の手をじっと見た。
「指、昔から長いよね、うらやましい」
華蓮は、春香の丸い指を見た。
「僕も、春香ちゃんの丸指好きだよ」
春香は、少し、むくれた顏。
でも、すぐに笑った。
「何も変わっていないね、華蓮ちゃん」
「安心した」

きれいなウェイトレスが、注文を取りに来た。
春香は、チョコレートケーキとカフェオレ。
華蓮は、洋ナシのタルトとアールグレイを頼んだ。

春香は、そのきれいなウェイトレスが不安になった。
「華蓮君、あのきれいなお姉さんと知り合いなの?」
華蓮は、キョトンとした顔。
「顏は見ないよ、メニューは見るけど」
「知り合う必要あるの?」
(春香は、思い切り首を横に振った)

春香は直球質問を開始した。
「今、どこに住んでいるの?」
華蓮は素直に答える。
「学園長のお屋敷」
「母さんの葬式の夜から住んでいる」
春香の表情が変わった。
「マジ?お母様・・・お亡くなりに?」
「いつもやさしくて、ピアノも上手で・・・」
「ごめん、知らなかった」
「でも、子供の頃は、高田・・・華蓮君」
「それが森本華蓮になっている・・・のは?」
華蓮は、少し表情を暗くした。
「森本は、母さんの旧姓」
「5歳の頃から、調布に住んでいた」
「学園長は、よく通って来た」
「理由は、僕にはわからない」
今度は華蓮から声をかけた。
「春香ちゃん、文学賞、おめでとう」
「すごいなあと、雲の上の人だよ」
春香は、顏を真っ赤にした。
「恥ずかしいよ、何か」
「今、すごく人気者の華蓮君に言われると」
華蓮は、また表情を暗くした。
「人気って言われても、ピンと来ない」
「最近は、本を読んでいることが多い」
テーブルの上の華蓮のスマホが鳴った。
(春香は『山田由紀子』の表示を、目ざとく読み取った)
華蓮は、「ぶっきらぼう」な対応。
「由紀子ちゃん、何?」
「今?神保町」
「どこにいてもいいでしょ?」
「夕食?それまでには帰れ?」
「外食したい、天ぷら食べたい」
「だって、名店が近いし、匂いがたまらないもの」
「じゃあね、バイバイ!」(華蓮は電話を切ってしまった)
春香は、恐る恐る聞く。
「もしかして、由紀子ちゃん?」
「あの子と私、親戚よ」
華蓮は目を丸くした。
「僕も、血のつながりがあるって聞いた」
「詳しくは知らない、遠縁かな」
春香は、華蓮の手を握った。
「私も天丼食べる」(華蓮の顏がパッと輝いた)
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