第25話 転校後の平穏な学園生活、そして文化祭

文字数 1,561文字

森本華蓮の住所変更、転校手続き、スマホの解約は、全て森本病院の専属弁護士が行った。
連絡交渉相手は、聖トマス学園専務の山田保だった。
学園長剛士に反発する保は、簡単に手続きを了承した。
「山田家としても、聖トマス学園にしても、厄介払いになります」
「聖トマス学園は、いわゆる上流階級のご子息だけを受け入れております」
「森本華蓮などは、下の下です」
「学園内を歩くだけでも、汚らわしい」
「そんなゴミを引き取っていただいて、実にありがたい」

保は、一連の手続きを終えても、学園長山田剛士にも、一切報告しなかった。
剛士が問いただしても、「生徒の個人情報保護」を理由に、詳細な報告を拒否した。
また、森本華蓮の聖トマス学園在籍時の記録一切を消去してしまった。
聖トマス学園内部にも、当然、発表はしない。
学園理事会で追及されても、「下層階級であり、当学園の風紀に馴染まない」とだけ弁明、一切の詳細を発表しなかった。

由紀子と香苗、春香は、「森本家の介入」を当初疑った。
ただし、森本家は、華蓮の存在そのものを絶対に漏らさなかった。
それ以上に、行方不明の原因を、しつこく追及した。
特に「やましいこと」を自覚していた由紀子と香苗は、黙ってしまった。
(特に親に知られるのが、怖かった)

春香は、森本家の対応以前に、由紀子と春香の華蓮への暴行を強く疑っていた。
その森本家が強い態度に出るのだから、疑いは確信に変わった。
今は、少し時間をおいて、横浜の森本家を訪ねようと、考えている。

華蓮に執着していた(実の父の)剛士は、体調を崩した。
もともと高めの血圧がさらに上昇、常に180から200になった。
ついで、軽い脳梗塞を発症し、系列の病院に入院を余儀なくされた。
(医師からは、リハビリを含め、約3か月の入院の診断)

そのような状態が重なり、山田家は、華蓮をしばらく見失うことになったのである。

一方、華蓮の新天地での学生生活は、実に順調だった。
幼なじみの佐藤美沙も、積極的に華蓮をサポートした。
「子供の頃から、すごくやさしくて、頭も良かった」
「みんな、華蓮とお友だちになってね」
(ピアノの腕は、華蓮に口止めされていたので、言わなかった)
(佐藤美沙も人気があり、全員が協力した)

華蓮は、普通の学科も優秀な成績をおさめた。
(聖トマス学園では、音楽中心のプログラムで、普通の学科の比率は少なかった)
また、スポーツも、無事にこなした。(足が速かった)

性格も聖トマス学園(山田屋敷)にいた時とは比較にならない程に、明るさを取り戻した。(謙虚ながら、上手に他の生徒に話を合わせた)
ルックスもよく、学校内の評判も高まった。

ただ、音楽の授業では、ピアノの腕は、隠し通した。
合唱の練習で、ピアノ担当が欠席した時も、ピアノを弾かなかった。

休日は、男女を問わず数名のクラスメイトと、横浜の街歩きを楽しんだ。
中華街、元町、山手を和気あいあいに、歩きまわった。
「彼女希望者」は、多かったが、特定の「彼女」は、つくらなかった。
(華蓮は、両親が既にいないことを、負い目に感じていた)

そのような順調な学生生活が続いた一か月後、クラスで「文化祭の出し物について」の話し合いが行われた。
「お化け屋敷」「コスプレ撮影会」「古本市、フリーマーケット」「メイド&執事カフェ」等、アイディアが出されるなか、クラス委員長の吉沢美紀が提案した「バンド演奏&コーラス」の案が注目を集めた。(吉沢美紀は、馬車道でギターレッスンを受けていた)(他にもクラス内に軽音楽部、吹奏楽部所属が5人いた)
「クラス内でバンドを組むの」
「Jアイドル系からジャズ、ロック、オールディーズがいいかな」
「楽器が出来ない人は、コーラス参加でどう?」
クラスメイトは、面白がって、賛成多数となり、その案で決まった。
ただ、華蓮は黙って合唱の一人に回った。

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