第9話 華蓮の思い

文字数 950文字

翌朝は、通常通り、一階の食堂で朝食。
その後、華蓮は、由紀子と香苗と一緒に登校、音楽科の校舎に入った。
(由紀子は三年のクラス、香苗は二年にそれぞれ別れた)

華蓮が一年のクラスに入ると、オーケストラ部の河合純子(三年生)部長が、待っていた。
いきなり、赤い顔、早口で話しかけて来た。
「昨日のバッハ、すごかった、良かった」
「ねえ、オーケストラに入ってよ」
「ピアノだけじゃないよね、ヴァイオリンも上手よ」

華蓮は、嫌がった。
「多人数の中での演奏は苦手です」
「ソロか、多くて五人くらいの室内楽までです」
「僕は、オーケストラには入りません」

河合純子は、華蓮の手を握った。
「私の隣で弾いて」(河合純子はコンサートマスター)
「華蓮君なら、次のコンマスも任せられる」

河合純子に続いて、クラス内のオーケストラ部の生徒も、華蓮を勧誘し始めた。
「ねえ、やろうよ」
「お願い、華蓮君」
「昨日の夜の演奏で、ものすごい評判なの」
「10月のコンサートでどう?」

華蓮は、それでも首を横に振った。
「嫌です、お気持ちだけ、ありがたく」
(強い口調だった)

河合純子は、涙目で、クラスから出てていった。
(クラス内のオーケストラ部も一斉に顔を下に向けた)

華蓮の隣に座る小川尚子が、心配そうに声をかけた。
「華蓮君、大丈夫?」
「ここのところ、毎日だね」

華蓮は、小さく頷いた。
「しつこいかな、あの人」
「とにかく、ストレスになっている」

小川尚子は華蓮をじっと見た。
「そこまでオーケストラが嫌いなの?」

華蓮は、少し間を置いた。
「あまり派手な音楽は好きでない」
「それと、河合さんが嫌」

小川尚子は頷いた。
「私も、あの人、嫌」
「香水臭いし、上から目線の人」
「親が、Mフィルの常任指揮者、それを鼻にかけている」

華蓮は、少し笑った。
「僕には関係ないかも」
「オーケストラなんて、やる気もないし」
「もっとと言えば、ピアノも音楽も、どうでもいい」
(クラスメイトには、動揺が広がった)

小川尚子は、華蓮に迫った。
「そんなこと言わないでよ、華蓮君のピアノ聴きたいよ」
(クラスメイトも同じ気持ちらしい、華蓮の次の言葉に注目している)

華蓮は、ため息をついた。
「音楽科をやめて、文学科に入りたい」
「ピアノを弾くより、本を読みたい」
「それが本音だよ」

華蓮は、遠くに見える文学科の校舎を見ている。
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