第38話 歴史時代小説書き方講座・受講報告

文字数 2,414文字

「オール讀物」編集部さん主催のオンライン講座。昨日もまた受講してみました。
「坂井希久子さん歴史時代小説書き方講座」です。

 時代小説には、単行本を出さない「文庫書下ろしシリーズ」というジャンルがあり(佐伯泰英さんが作り上げたジャンルらしいです)、坂井希久子さんも主にこの舞台でご活躍されている作家さんです。

 今回は新しく出た文庫本と、オンライン受講券がセットで販売されていました。こういう本の販売スタイル、定着するかもしれないですね。実を言うと私も講座目当てで、初めて坂井さんの本を買いました。同じような人は多かったのではないでしょうか。

 坂井さん、お着物姿が本当に美しくて、私は何度も見とれてしまいました(笑)。雨の予報だからポリエステルの派手な着物にした、ということでしたが、とても粋でしたし、耳元の大ぶりピアスとの相性も良し。誰かに着せてもらった美しさではなく、本当に自分で着こなしている感じ。大人のオシャレはこうでなくちゃ、と思わせてくれました。
 着物が本当に好きでなければ、こうはならないだろうなーと思うのです。そしてその好きなものを小説に仕立て上げたのが、今回の課題図書でした。

 『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』。シリーズ物の第二作目ですが、私は一作目を読んでいないにも関わらず、内容にはかなり入り込め、楽しめました。
 江戸のカラーコーディネーターのお話です。呉服屋さんで「色見立て」をする専門職の女性が主人公です(そんな職業があったというわけではなく、坂井さんの創作のようです)。

 坂井さんが編集部に、「江戸+横文字の職業」の企画を出して、通ったから書いた、ということでした。坂井さんと編集さんとで、江戸と横文字は意外と相性が良いんですよね、と言い合っていましたが、そうなんでしょうかね?
 またちょうどその時に巷でカラー診断が流行っていたから(女性はご存知かもしれませんが、イエベ春、とか、自分に似合う色をパターン化するものがあるのです)良い企画だと判断されたようです。やっぱり「今」を反映できていることも重要なんですね。実際、主人公のお彩も呉服屋を訪れる客に何が似合うか、真剣に考えていくことで物語が進みます。

 私は読んでみて、主人公のお彩よりも「バディ」である男性、右近(うこん)が魅力的に感じられたのですが、講座でもまさにそこが触れられていました(このシリーズがヒットするに当たり、右近がキーパーソンなんだそうです)。
「東男と京女」という言葉がありますが、この作品では逆なんですね。「江戸女と京男」。気風の良い江戸言葉でちゃきちゃき話すお彩と、はんなり京都弁を話す右近とが、そのままキャラを表しています。お彩は苦労している分(貧乏だし、盲目の父親を介護してきた設定)、性格的には少々きついところがありますが、だからこそ苦労を知らないお坊ちゃん(に見える)金持ち右近のような男は嫌いなのです。

 この「嫌い」という感情が良いなーと思います(笑)。現実の人間関係ではなかなか頭の痛いところではありますが、やはり葛藤が物語のエンジンになるわけです。この二人は男女ですから、いかにも相性が悪そうな設定は逆に「そのうち相思相愛になるんじゃないの?」という期待を読者に抱かせます。
 私も期待しながら読みました。期待させておいて、なかなかこの二人はくっつかないわけですが(笑)、そこが狙いなんでしょうね。一つの仕事を終えるたびにそれぞれちょっとずつ成長して、相手の思わぬ側面を発見してちょっとだけ見直す、ということも起きてくるわけです。

 坂井さんは「登場人物の関係性がしっかりしていると、物語が勝手に進む」と仰っていましたが、なるほどなーと思います。
 そして人間の成長という点では、短編ではちょっとした変化、長編ならより大きな変化、さらにシリーズ物となるとほとんど育成ゲームのようだと仰っていました。登場人物の欠点を最初の方であえて見せ(お彩は頑なだし、右近は自分を大切にしていない)、少しずつ変化をもたらすのだそうです。
 なかなか描くのは大変そうですね。でもここをしっかり考えるのは重要なことかもしれません。

 坂井さんが小説教室(山村正夫記念小説講座)で修行されていた頃、「カメラ目線になっている」との注意を受けたことがあるそうです。当時の坂井さんは淡々とした人物ばかり書いていたり、また人間以外の視点で書いていたりしたそうですが、講師の先生から「人間を書こうよ」と言われたのだとか。
 たぶんこういう注意は重たく感じられたことでしょう。でも坂井さんは素直に受け止めて、自分の作風を変えていったから成功されたのかもしれませんね。

 右近の話す京ことばについて。
 関西出身の坂井さんでさえ、「間違っているかも」と仰っていました。江戸の話し言葉についてはそれなりに資料があるものの、上方は少ないのだとか。
 だけど右近の嫌味っぽいキャラクターが出ていれば良いのだと、腹をくくったそうです。確かに読んでいて、京ことばであれば右近のセリフだとすぐに分かるし、絶妙なタイミングでツッコミを入れたり、他人の苛立ちをうまく丸め込んだりするこの男性らしさが伝わってきたような気がします。
 方言の取り扱いについて、参考になる考え方だと思います。

 最後に、小説を書いている人々に向けて。
 坂井さんから「落選を恐れないで」という言葉がありました。どんどん書いて、どんどん出すしかないのだそうです。それも、新しいものを。改作して別の賞に出すのはやっぱり駄目なのだそうです。
 落ちるたびにがっかりするけれど、「デビュー後にはもっと地獄が待っていますから」と笑顔で仰っていました。
 うーん、実力のあるプロ作家さんだから言えるんだよなあ、という気はしますが、そのように精進しましょう。

 今回も大変勉強になりました。また新しい話を聞けたら、レポートしてみたいと思います。

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