第36話 戦国リアルな『清須会議』

文字数 2,225文字

 今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、面白いですね~。

 あまりテレビを見ない私も、毎年大河ドラマだけはチェックしています。
 最初のうちは、結構楽しみます。
 でも数か月も経つとだいたい飽きてきて、最初の熱はどこへやら状態に。
 ざっと言うと、1~2月はドラマ開始時間までに頑張って家事を片付け、テレビの前に陣取っているのに、3~4月にはダラダラと「やりながらチラ見」になって、次第にそれすらやめてしまう。
 それが毎年のルーチンになっていました。

 それが今年は6月に入ってもまだ熱が冷めやらない。画面を食い入るように見つめている自分に驚きます。

 テレビドラマが面白いかどうかって、脚本にかかっていますよね。好きな俳優さんについての感想なんかもよく見かけるけど、やっぱり脚本。昔から映画は監督、ドラマは脚本、舞台は演出、なんて言われてきたし(誰の言葉なんでしょうね? 知っている方、教えて下さい)。

 で、三谷幸喜さんの脚本ってすばらしいと思う。キャラクターの書き分け、セリフの付け方、ストーリーの運び。ちゃんと史実を踏まえながら、人間がちゃんと描けていると感じます。重厚さに欠ける、といった感想を持つ方もいらっしゃるようですが、私は登場人物の心情がダイレクトに伝わってくる描き方、とても好きなんですよね~。

 というわけで、今回は三谷さんが手掛けた歴史小説を取り上げてみたいと思います。
 
 三谷幸喜『清須会議』

 天正10年(1582)の本能寺の変。織田信長は家臣の明智光秀の謀反によって自害に追い込まれ、その嫡男である信忠も切腹。そして光秀も山崎の戦いで敗れ、逃亡中に討たれます。
 ここまではおなじみの出来事ですね。激しい戦国の世。すさまじい出来事の連続です。この小説では冒頭、信長が炎の中でイテテテと叫びながら自害するんですが(笑)、まあこれもアリでしょう。

 さて。
 その後、織田家の後継者はどうする? という大問題が浮上するわけです。そこで有力家臣たちが清須城で話し合ったのが「清須会議」と呼ばれるもの(「清州」の字もあり)。
 当時は跡目争いとなると、殺し合いが繰り広げられるの普通だったので、平和的な話し合いはむしろ異例のことだったようです。

 だけど殺し合いに匹敵するぐらい、登場人物が必死に思惑を張り巡らせるのが面白い。この作品は会議に先立っての根回しといった事前工作から始まり、会議の決着まで一応時系列に沿って話が進んでいきます。

 だけど基本的には、それぞれの人物がモノローグで勝手なことをしゃべっているんですね。自分の狙いというものがちゃんとあり、その上で自分の取る行動を決めていくわけです。
 呆れるほど、みんないろいろなことを考えています。自分の立ち位置を守るためには、誰を擁立すべき? 好きな人の気を引くためにはどうしたら良い? 他人の目も気になるから、評判を落とすようなことはしなくないな~、などなど。

 だけどこれが頻繁に裏切られ、思い通りに事が運ばなくなります。無論、その人物はキレまくります。これがリアルで面白い。
 面白い、と書きましたが、抱腹絶倒というよりは終始ニヤリとさせてもらえる感じ。結構鋭いと思うからこその面白さなのだと思います。どんな時代にも人間ってこうだったんだなと思わせてくれます。

 私が特にハマったのは、権六(柴田勝家)とお市の方とのやりとり。
 自分の想いは胸に秘めていると信じている権六と、単純な男の願望などとっくに見抜いているお市。権六は戦場では勇猛果敢ですが、平時は愚直で冴えない人なのです。片やお市は研ぎ澄まされた刃物のような美女ですから、自分がどう見られているかよく分かっています。男女の見方の違いをあぶりだすと、確かにこうなるだろうなと思うわけです。

 しかも、ここにもう一人、お市にあこがれる男が絡んできます。羽柴秀吉です。
 お市の方はしつこく言い寄ってくる秀吉にうんざりし、だったら権六の方がまし、と考えてしまいます。この辺は女性の心理あるあるかもしれません。

 ですが、これがどれほどの悲劇を生むことになるか! その結末を多くの読者が知っているわけですから(そう、翌年には……ですよね(涙))、固唾を呑んで見守ることになります。

 主君である秀吉が恋に破れた時、あの「軍師官兵衛」が何と言って励ますか。そこも読みどころと言って良いでしょう。
 ありゃりゃ、この件は官兵衛が教導したのか。
 こんな感じですよ(笑)。史実と食い違いがあろうがなかろうが、物語として妙~に納得してしまいます。こんな小ずるいやり方で、「次なる権力者」が誕生していくんだなあと思わずにはいられません。
 
 歴史の裏側で、どんな人間ドラマが繰り広げられているのか。好き嫌いはいろいろあるけれど、多くの人が歴史小説で読みたいのはそこではないでしょうか? この作品はまさに正鵠を射ていると感じます。

 基本的にコメディーということもあって気軽に読める作品です。何より「現代語訳」と断った上で登場人物が「現代語+一人称」でペラペラしゃべる感じがたまらない! 初めて読んだ時には「へえ~、こんな表現の仕方があるのか」と感動したのを覚えています。

 そしてこの話、私の作品をお読み下さったことのある方には既視感があるかも(笑)。そう、私は三谷さんからもかなり影響を受けています。三谷さんの歴史小説はこれだけ(?)のようですが、他にも出ると良いですね。
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