第1話 冷めた時代だから

文字数 1,829文字

 小説が好きで好きで。
 それも読むにとどまらない。内なる衝動に突き動かされ、自分も書くようになって。

 このサイトの皆さん誰もが、きっとそうなんじゃないかと思います。
 だけど、書き始めると欲が出るもの。できれば自己満足に終わらず、その作品で人を感動させたいですよね。

 そんなことを思うのはお前だけだって?
 身の程知らずな野心だって?

 ま、そうかも(笑)。だけどみんな、ちょっとは何かがしたくてサイトに登録しているわけじゃないですか。どうせなら新しい感動を生み出したいじゃないですか。

 なのに自分を顧みると、実生活では「やるべきこと」に追われるばかりで、ろくすっぽ感動なんかできていません。
 何たる体たらく! 感性の鈍りは、創作をしたい人にとってかなり致命的なことだと思うのに。

 この「冷めた」感じは、てっきり自分が若くなくなったからだと思っていました。
 でも中学生の息子やその同級生たちを見ていると、若くても冷めている子はいくらでもいます。誰かが目の前で感動していても、「へえ~」と冷笑し、「おれには関係ないね」。
 何だか寂しいですが、どうも今は世の中全体が冷め切っているようです。
 
 価値観の多様化は、良いこともいっぱいあります。例えば流行について行けないからといって、肩身の狭い思いをする必要はなくなりました。無理に空気を読んで、その場に同調しなければならない圧力も(まだ結構あるけれど)、昔よりはずっと減りました。

 だから世の中の権威に対し、冷めたツッコミを入れるのも自由です。小説だって大ヒット作品に対し「あの作品のどこがいいの?」とか「この点について描き方が甘くない?」などとつぶやくことぐらいは許されてる。まったく良い時代になりました。
 もちろんこれ、公開する場合は慎重を期しますよ。ファンの方の反感を買ってしまいますから(笑)。
 でも創作をしている方ならどなたも、多かれ少なかれ、やっているのではないでしょうか。書く以上は、他人の作品を分析する力も必要。自分の感性を信じられさえすれば、何を好きになるかは自由です。

 他方、自由であることの苦労も背負わねばならなくなりました。
 感動したふりをしなくて良いのは楽ですが、じゃあどこに良い作品がある? と聞かれたら、なかなか答えられないものです。ただ待っていても感動は来てくれない。良いもののありかは、自分で探さなくちゃいけない。小説の場合はとにかく読まないと、自分にとっての「価値ある作品」には出会えないと思います。

 何をどう読もうと勝手だけど、心は嘘をつきません。何となく惹かれて、頑張って読んだはいいけれど、「なーんだ、がっかり」に終わることも多々あるわけで。

 その「がっかり」が99あったとしたら、本物の感動は1あるかないか。
 だけど、そんな確率だったとしても、別に良いじゃないですか。99の無駄を踏んでも、1の感動に出会えたら、報われたと言えるでしょう。
 感動を探す旅は、ぜひともすべきです。無駄としか思えなくても、その労力なくして感動には出会えません。

 ようやく出会えたそれが、小さな感動であっても良いと思う。そういうものこそ、世の中捨てたもんじゃないなあと思わせてくれます。
 だからちょっとでも心に引っかかった「良い」モノについて。
 それのどこが感動を生み出しているのか分析してみる……というのも、悪くはないんじゃないでしょうか。

 そんなわけで、ここでは私が出会った「百分の一」を記事にしていこうと思います。
 音楽も、料理も、ファッションも、私は大好き。だけどそんな華やかなものではなくて、日常生活の中で出会った小さな感動で良いのかもしれません。どうせ普段の生活なんて「がっかり」だらけなわけですから、他の人の振舞いに「あ、いいな」と思えるものがあったら、それだけですばらしい。

 だけどやっぱり、小説を一番多く取り上げたいところではあります。本気で感動したものだけに絞るので、最近読んだものとは限らないし、直木賞やら本屋大賞やら、みんながとっくに知っているものを語って「今さら何?」と笑われちゃうかも。
 それでもとにかく、自分が「本気で感動」してきたのはどんなものなのか、振り返ってみたいと思うのです。

 ずっと探していた仇討ちの相手を見つけた時のように、心を動かす何かに出会ったら、私たちはスルーしちゃいけない。
 逃がさぬとばかりに捕まえて、刮目して見るべし。
 ここで会ったが百年目、と。
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