第40話 カルミナ・ブラーナ万歳

文字数 3,328文字

 毎度のことながら、訳知り顔でクラシック音楽のチャットノベルを書くなどしている私。素人がよくもまあ……と呆れ返っていらっしゃる方も多いことでしょう(笑)。

 でもこの手の文章って、「書きたい」という思いがすべて。どこがどう面白いのか、自分なりの思いを書くだけでも誰かの好奇心を刺激することがあるかも。なので『チャットでカルミナ・ブラーナ』のような不出来な作品がこのサイトの片隅に存在すること、お許しください(笑)。

 とにかく、勢いでそんなものを書いてしまうほど愛してやまないこの曲。その生演奏を聴ける機会があったら、行かない手はないでしょう!

 というわけで先日行ってきました。新日フィルの定期演奏会。
 バルトークの『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 BB114』と、オルフの『カルミナ・ブラーナ』の二本立てです。

 月曜日だから、人も少ないかな? などと思いきや、とんでもない。ほぼ満席でした。
 場所も場所だもの。サントリーホールです。そう、「世界一美しい響き」と言われる、あのホールです!

 今は都内にも近県にも音響が素晴らしいホールがたくさんあるので、何もサントリーホールじゃなくても……とは思います。だけど、やっぱりここに来る時はワクワク感が違う。六本木に近づくだけでテンションが上がることといったら!

 今回は赤坂方面から歩いて行ったのですが、途中で腹ごしらえもできて一石二鳥。
 アークヒルズに入ると、そこからはエスカレーターです。滝を横目に、おしゃれなカフェが立ち並ぶアーク・カラヤン広場(何でもヘルベルト・フォン・カラヤンがホールの設計に助言をしたから、その名を冠しているとか)を通り抜けて。
 いざ中へ入ります。

 おお~。やっぱり天井までの空間の広さが違う! 
 そして正面には、あの有名なパイプオルガンですよ(笑)。
 

 トイレの壁にまで大理石が使われているなど、やっぱりこのホールの「リッチ」感は格別。私達は「非日常」を求めて音楽を聴きにきているわけですから、こうしたちょっとした快適さは決して無視できません。これが総合的な満足度につながってきます。

 いいね、いいね~、とニヤニヤしながら座席につく私。
 会社からやってきた夫と合流します。夫の顔には滝のような汗。
「……メシ、食う時間がなかったよ」
 ごめん、普通はそうだよね。自分だけ食べてきちゃった私は、申し訳なく思いながらタオルを渡します。

 さてオーストリアの指揮者、クリスティアン・アルミンクさんを生で見るのは初めてでした。
 一応この人の端正なお顔は知っていたんですが……彼が舞台に登場するや、「わー、背も高くて超カッコいい!」。拍手しながら思わず息を呑みました。何ともサマになっている燕尾服姿。日本人が真似るのは難しい。

 元々、イケメンっぷりで有名な方だったようです。50代に突入したとは思えない、アイドルのような方でした。
 アルミンクさん目当てで来ている方も多かったようです。ほんと、何も知らない私(笑)。

 でもアルミンクさんの真骨頂は、指揮台の上での派手なパフォーマンスだったよう。
 正直なところ、バルトークの現代曲はちょっと難解かな、と思わないでもなかったです。時おりハッキリしたメロディーも登場しますが、基本的に不協和音がずっと続くイメージで、転調も激しい。 

 それがノリノリのイケメン指揮者のお陰で、とっても楽しく聴くことができたんですよね〜。アルミンクさんは、全曲を通じてほとんど「踊って」いましたし、クライマックスではジャンプまでしていました。何てアクロバティック、「全力投球」な指揮でしょうか。
 
 そんか指揮者を見ているうちに、だんだん曲の面白さを分かったような気になれるのが不思議。こういう感動の与え方ができる人もいるんだな~と感じ入ってしまいました。

 さてバルトークが終わると、休憩をはさんで『カルミナ・ブラーナ』が演奏されます。

 急に周囲がそわそわし出したような気がするのは私だけ?
 でもこっちの曲を目当てに来ている人が、圧倒的に多いはず。そのぐらい人気のある曲だし、新日フィルの方でも過去の演奏会で好評だったからもう一度、ということになったようです。

 さて聴衆が固唾を呑む中で、始まります。本日のメインディッシュ。

 まずは後ろの座席に二期会合唱団が入り、舞台にはさっきよりも大編成のオーケストラ。
 グランドピアノが二台、打楽器も目一杯。このホールの舞台に入りきるのかな、と思うぐらいでしたが、ギリギリ入っていました。舞台上はかなり「密」だったのかもしれません。

 アルミンクさんも入ってきて、場内はシーンと静まり返ります。咳払いもできないような、緊張のひととき。

 やがて静寂を打ち破るように打楽器が打ち鳴らされます。
「おお、フォルミナ」です。
 大合唱が響き渡り、轟音が迫ってきます。髪の毛が逆立つような音の嵐です!

 この圧倒的なスケールといったらありません。曲の冒頭から鳥肌もの。

 プログラム解説によると、オルフの時代の中世観(中世を「暗黒時代」と見なす歴史観。今はほぼ否定されています)は単純素朴なものだったので、オルフはイメージそのままの中世を表現したとのこと。つまりポリフォニーなどの技巧的な華やかさは追求せず、あえて単旋律の神秘的なイメージを尊重したというのです。
 まるでディズニー映画を見ているような分かりやすさで、『カルミナ・ブラーナ』は中世ヨーロッパを私たちに見せてくれているというわけ。
 
 と書くと、じゃあこの音楽が間違っているのか、と言われそうですが、別にそんなことはありません。確かに歴史学で言う「正しさ」とは違うかもしれないけど(フィクションと割り切らなければならないけど)、オルフのこの手法が劇的な効果を生んでいることは間違いないです。

 音楽を評する時によく使われる「グルーヴ感」という言葉があります(厳密には意味が明らかでないそうです)。『カルミナ・ブラーナ』にはうねるようなグルーヴ感があります。気分が高揚して、身体を動かしたくなります。クラシック音楽でもこういう効果のある作品が愛されるのでしょうけど、『カルミナ・ブラーナ』は特に顕著だと思うのです。

 そして、この日の演奏。
 やっぱり素晴らしかった!
 新日フィルの打楽器奏者の方たちは、いつも良い演奏をされますが、こういう派手な曲の時には一層その効果を強く感じます。お腹に響く、ティンパニの音。はじけるような鈴やグロッケンシュピール。打楽器がなければ、感動は半分だったことでしょう。

 そして二期会合唱団。たぶんどの方も、ソロで歌えるぐらいの実力がおありなんでしょうね。児童合唱団の方も信じがたい上手さでしたが、これは指導者の賜物でしょうか。
 欲を言えば、ソプラノ、テノール、バリトンの各ソロ歌手の方には、オーケストラの前で歌って欲しかった(スペースの都合なのか、この日は後ろで歌っていました)。大音量の曲の時には、オーケストラにかき消されてしまっていたのがちょっと残念。
 でもソプラノの今井実希さん、文句のつけようがないほど素晴らしかったです。
 
 サントリーホールで、イケメン指揮者を見て(笑)、これだけの迫力ある演奏を聴けるって、何と幸せなことでしょうか。有り難いと心から思いました。
 そして周囲を見、また高齢者の会話を小耳にはさんで感じたことですが、クラシック音楽は年をとっても楽しめるよう。

 病気をしても、杖や歩行器に頼る生活になっても、「この日にコンサートに行くんだ」と思えばそれが生きる気力になるようです。この楽しさを味わうためには、一定の研鑽が必要ではありますが、いくつになっても夢や希望を持っていることの強さといったらありません。この普遍性は、他のジャンルではなかなか味わえない部分かと思います。若くて元気なうちから、親しんでおく価値がありますよ(笑)。

 そんなわけで、また感動をもらった新日フィルのコンサート。会社の補助を受ける関係で、他のオーケストラにはなかなか行けないのですが、特定の楽団を応援するのもありでしょう。
 今回もとても良かったです。また行きたいと思います。
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