第8話 「本命」となった絵本

文字数 1,842文字

 読後何年経っても忘れられない絵本というのがあります。

 ちょっと感動、まあまあ感動、というレベルの絵本ならここに書き切れないほどあるんです。でもこのエッセイ、「本気で感動」縛りでいきたいので、今回はそれに該当する絵本を取り上げてみます。
 以下は壮大なスケールを持つ、胸が震えるほどの感動(←まさに私の好み!)がある絵本。いずれもストーリーが力強いです。
 すみません、またネタバレですが、ご容赦下さい。

 ①コマヤスカン『ドングリ・ドングラ』

 ドングリたちがはるかな遠征の旅に出る、一大スペクタクルロマン。可愛らしいのだけれど、ドングリたちが身にまとう衣装をよく見ると、中世の十字軍の騎士の姿と重ね合わされていることが分かります。

 リスとの壮絶な戦い、果てしない砂漠や雪山を乗り越えて、厳しい冒険を続けるドングリたち。途中で脱落する者も出てきます。
 ついに最果ての地、火山島に到着した時。
 彼らの命がけの旅の目的が分かります。静かな感動が押し寄せます。

 読み聞かせ会では、秋の校外学習でドングリを拾ってきた二年生のクラスで読みました。災害からの復興というテーマも含んでいるので、裏表紙までしっかり見せることをお勧めします。
 大人が読んでも、多くのものを感じ取れる良質な作品です。

 ②トーベン・クールマン『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』

 ネズミ捕りの発明により、仲間がほぼ全滅するという壮絶な体験をした一匹のネズミ。生き延びるため、そして持ち前の探求心のため、彼は飛行機の発明を思い立ちます。
 多くの設計図も試作品も、すべてダメ。しかしどんなに失敗を繰り返しても、彼はめげずに空を飛ぶことを目指します。
 いくつもの障害を乗り越えて、ついに飛行機は完成。彼は命がけの、大西洋横断の旅へ出発します!

 緻密な絵の迫力が圧巻です。時代考証に基づいた、20世紀初頭のハンブルクやニューヨークのリアルな描写がとにかくすごい。逃亡者への厳しい監視の目は、どこかナチスをも想起させます(著者はドイツ人)。

 絵もストーリーも複雑ですが、読み聞かせだったら3~4年生からOKではないでしょうか(ただし全文だと、普通のスピードで読んで20分ぐらいかかります)。航空機開発の歴史にも触れられており、乗り物好きな男子が、前のめりになって見てくれますよ。

 ③きむらゆういち『あらしのよるに』(※全7巻)
 
 アニメ化されるなどして、一時期ずいぶん流行った作品ですが、今も色あせない大傑作。最初の1巻だけでも楽しいですが、7巻まで通して読むことで大きな感動の渦に包まれます。

 オオカミのガブと、ヤギのメイ。食う者と食われる者との間に、友情は成立するんでしょうか?
 友達になったのに、時々メイを食べたくなってしまうガブ。物語にスリルが満ち、ハラハラしながら読み進める構造です。
 
 見た目は可愛らしい動物絵本なのに、テーマは非常に重く、まさに個人と組織の葛藤を描いています。
 ……と書くと難しそうだと思われてしまうかもしれませんが、ストーリーがしっかりしているので、子どもでも理解できるんです。本当によくできています。映画、舞台、歌舞伎。さまざまなメディアに翻訳されたのもうなずける作品。

 もう別れるしかないと思われたクライマックス。怒り狂う濁流を前に、ガブとメイは、驚くような選択をします。
 この壮絶な決断ときたら! 作者のきむらさん自身が近松門左衛門に例えている文章を読んだことがありますが、まさに男女の心中物よりも胸が熱くなるシーンです。

 裏切り者を追い詰めるオオカミの群れ。山を破壊するほどの大雪崩。
 何度も死の危機を乗り越えて、静かなラスト(甘くはないけど、一応ハッピーエンド)を迎えます。圧巻といっていいレベルの感動が、これでもかというほど続くのです。「骨太」な絵本というものがあるなら、これのことを指すのではないでしょうか。

 ちなみに絵本版のみで見られる、あべ弘士さんの絵も野性味があって素敵です。北海道の旭山動物園に行った時、あべさんのイラストが園内の案内表示に使われていて(ここの飼育員さんだったんですよね!)こちらにも感動しました。

 今はこの作品、複数の出版社の国語教科書に採用されているそうです。読み聞かせ会では時間の制約があるので、私は1巻しか読めませんでしたが、7巻まで自分で読める子だったら夏休みの読書感想文にも良いのではないでしょうか。
 大人にも読み応えたっぷり。魂が揺さぶられる名作です。


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