第32話 おっかなびっくりPTA改革②

文字数 2,596文字

 さぁ改革してやるぞ、の意気込みで入ったPTA本部。
 そう、PTAのあり方に問題を感じ、何かを変えたいと思ったら、敵の本陣に斬り込まねばならないのです。相討ちを覚悟の上で、ガツンと一発、戦おうじゃありませんか!

 ……とひとまず書いてみましたが、実際はそこまで思い詰めていたわけじゃありません(笑)。小学校でやっていた読み聞かせの仲間からたまたま声を掛けられ、断れなかっただけです。むしろ私はただの「本好きな、口数の少ない、目立たない人」と思われていたようですね(このサイトにいる方は、似た者同士なのでは?)。

 PTAのイメージについては地域性もあるでしょうし、学校によっても違うと思います。私の場合は地元の有力者の奥さんやら、声の大きな派手目のキャラの人が多いという印象を持っていたので、自分は馴染めないと思っていました。ただでさえ役職に就くのって、気分的に「重たい」もの。積極的に手を挙げたわけではありません。

 でも、やることになった。
 入る以上は、やるだけやってみようと思いましたよ。で、次第に上記のような壮絶な覚悟を固めたわけです。

 もちろん最初はビクビク。嫌われちゃいけないと思い、まずは先輩の言うことに黙って従うことに決めました。そう、ひたすら笑顔で、無批判に、です(笑)。

 で、半年以上経った頃に、そ~っと提案をしてみました。
「このお手紙、もう少し分かりやすい表現に改められませんかね……?」
 普段から文章を書いている方には、お分かり頂けるんじゃないでしょうか。この文章には主語がないぞ、とか。内容が書き手の都合でまとめられていて、読み手には不親切だぞ、とか。
 うちの学校の配布物は、それこそツッコミどころ満載の代物でした。

 だけど、私の提案はスパッと切り捨てられたのです。
「このお手紙は、かつてこのPTAでご活躍された〇〇さんが書いたものだから」
 有無を言わせぬ、その言い方。要するに下っ端が偉そうに発言するのは駄目よ、と言われたわけです。
 組織の中で絶対的(?)な権威を持つ人の名を挙げて、新入りの意見を封じ込めるってやつですね。挙げられる根拠はその時によっていろいろなんですが、あまり納得できるものではないことがほとんど。不思議なほど、改革には抵抗が付きまとうものです。

 こっちは「かつてご活躍された〇〇さん」のことなんか知らないよ、という感じ。でも重ねて訴え、喧嘩になるぐらいなら、ここは差し控えようと思いました。
 つまり、お手紙の文言一つすら、変えるのは大変だということです。

 もう一つ例を挙げてみます。
 かつてうちの学校では、入学式の当日に地域の「偉い人」を来賓として招き、PTA役員が「さくら茶」をお出しする、なんていう風習がありました。おめでたい日のことだし、「偉い人」に失礼があってはなりません。だから役員のマニュアルには普段は淹れ慣れない「さくら茶」のレシピが載っていて、それこそ金科玉条のように大切にされ、歴代役員の間で連綿と受け継がれてきました。

 こういうことを、新入学の子供の親ならともかく、関係のない役員が仕事を休んでまで必死にやっているのがPTAなんですね~。コロナ前まで「さくら茶」を出していたと言いますから、ため息ものです。

 もうこんな時代じゃないでしょう、と思った私は、マニュアル改訂作業の時に「さくら茶レシピ」のページを丸ごと削除しようと提案しました。現にコロナで中断し、それで問題がないわけですから、行事そのものは復活させる日が来ても、こういう古臭いものはいらないと思ったわけです。

 すると案の定というか、先輩たちの猛反対に遭いました。
「いつかまた、元に戻すかもしれないでしょ? その時に困るじゃない」
 分かってないなあ~とばかりに私一人が笑われて終わり。「さくら茶レシピ」はそのまま残ることが決まりました。

 必要になったら、その時に調べればいいことじゃないですか、と言いたくなりましたが、ここでもそれ以上の反論はしませんでした。
 一事が万事、この調子です。変えようと思っても変えられない。
 本当に、自分の一存では決められないことの、何と多いこと!

 どんな組織でも、一年目は仕事を覚えるだけでやっとですよね。PTAは会社とは違うので、上司部下の関係はありませんが、新入りがいきなり今までのやり方を批判できないのは同じです。
 変えるということは、どんなに言葉に気を付けても、これまで頑張ってきた人を否定することになりかねません。正しい正しくないの問題じゃないんですよね。

 日本人社会は特にそうかもしれませんが、対立を避けようとすれば、「出る杭」になっちゃいけない。
 今はだいぶ変わってきたよ、という人はいるかもしれませんが、「うちの会社なんか、十年目ぐらいまでは何も言えないよ?」と言う人もまだまだ多いんじゃないでしょうか。まずは組織にとって有用な人材になることが先決で、偉そうな意見を述べるのはそれから、というわけです。

 これはこれで、間違ってはいないと思う。だけど、PTAの任期は多くが1~2年。下っ端のまま、終わりを迎えるわけです。これじゃ、何も変えられないじゃないですか。

 やれやれ、やっと分かってきた。PTA改革がなかなか進まない理由。
「前例踏襲」でやっていれば、喧嘩をせずに済みますもんね。

 大きな行事や習慣を廃止するといったことは、もっと難しいです。学校や地域を巻き込んで長年続けてきたことは、いかに今の時代に合わなくなったとしても、ある日突然やめるわけにはいきません。やめるなら関係各所に説明や相談をした上で、皆さんの納得を得られる形で収束に持ち込まなくてはならないのです(コロナは大きなチャンスになりましたが)。
 結局のところPTA改革って、この手のことに時間と労力を割かなくてはならないんですよね。

 ちなみに力を持っている「先輩」とは誰なんだという話ですが、何となく声の大きな(←これって大きな要素)、目立つ人がその地位に就くことが多いようです。別に他人の生殺与奪を左右できるほどの権力者というわけではありません。

 なので私は、「先輩」の引退後に動くしかないと腹をくくりました。二年目、私も「先輩」の立場になりますので、その時が改革のチャンスです。
 次回は、「変える」という意思表示をした時のことを書いてみたいと思います。

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