第35話 おっかなびっくりPTA改革⑤

文字数 3,931文字

 かなり脱線しましたが、本来のPTA改革の話に戻します(笑)。
 PTAってそもそも何のための団体なのか、誰のために活動をしているのか。そんな話が出てくるとうんざりされてしまいそうですが、その辺にグレーゾーンが多いのが元凶なので、少々お付き合いを。

 実はPTAの役員に対し、面と向かって苦情を言ってくる人はそんなに多くありません。
 だけどネット検索をすると批判的な意見がずらーっと。肯定的な意見は(あえて書く必要がないためでしょうが)ネットではむしろ少数派。
 ぎょっとします。こっちの方が皆さんの本音……? リアルの肌感覚とはちょっと違うような気もしますが、知らない人はそのまま信じてしまうかもしれません。

 叩かれる問題点は実際いろいろあるけれど、特に①強制入会②会費の徴収方法と使い道③個人情報の取り扱いが「3点セット」なのだそう。たぶん全国共通のホットな話題で、上部組織のPTA連合会(会長が代表して出る)などでは、多くの会議がこの勉強会になっているようです。

 各学校では、右も左も分からずに入ってきた「今の役員」が叩かれるのも定番。いわゆる「意識高い系」の人と渡り合うには、ある程度こっちも理論武装しないとね。
 ……いや、そんな状況だから、みんな余計に怖がってしまうんだってば(笑)!

 とにかく問題を感じている人が多い。
 じゃあ一刻も早く改革したらいいのに、と思いますよね?

 私も強くそう思っていた一人だというのに、いざ改革に取り組もうとすると妙な壁にぶつかってしまうのはこれまで書いた通り。今はもう、任期中にすべてをやり切れるわけじゃない、と一定の諦めというか、妥協点を見出す方向に舵を切ったところです。
 それでも入って一年以上経ち、自分なりに見えてきた部分があるので、それを書いてしめくくりにしたいと思います。

 改革が遅々として進まない理由はいくつも挙げられますが、一番の理由は改革そのものの大変さ。役員の任期は多くの場合1~2年なので、2年以上やらないとその先に進めないということも前に書きました。
 ここは、先輩から直接意志を引き継いだり、あるいは最初から仲間と作戦を練った上で、複数人で本部に乗り込んだりすれば話は別かもしれません。

 それ以上に大変なのが、人間には「自分が経験してきた苦労は、他の人にも経験してもらいたい」という心理があるところ。「苦労は美徳」ってやつですね。この嫁いびりみたいな考え方、男性がぶつかることも少なくないそうですよ。
 ただ「変えよう」という意見は、今まで頑張ってきた人たちの反感を買いがちであることだけは、知っておいて良いのではと思います。好きこのんで対立する人はいません。先輩に睨まれたら、誰だって即座に口をつぐんでしまいたくなりますよね。

 同調圧力に負けてしまう人が多いのもうなずけます。
「大人しく目立たないようにしていましょう。とにかく前例踏襲で。苦しくても、任期終了までの我慢ですから」みたいなアドバイスを、結構あちこちで見かけます。

 たまに改革を唱える人が出ても、かなりの確率でひねりつぶされます。私の感覚では、本当に変えたくないと思っている人以上に、「本当は必要だと思うけど面倒だから反対」という人の方が多いような気がします。仲間内から下手に「やる気のある人」が出てくると自分も巻き込まれるので、余計なことをしないで、という思いがあるようです。

 問題の先送り。「私の代では改革なんてできないけど、後に続く誰かがやって欲しい」。
 それって虫が良すぎない? と言いたくなりますが、要するに改革に費やす、その時間と労力がないのでしょう。
 時代遅れのPTAは、こうして出来上がっていきます。

 つまり、どうにかしようと思うなら、まず自分が憎まれ役を引き受ける覚悟を決めなくてはなりません。そして同じ意志を持つ仲間を作り、根回しとか(丁寧な説明はいつの世にも必要)、代替案を一緒に考えてもらうとか(何かをやめるなら、失う物のフォローも大事)、協力体制を築くことが鍵になってきます。
 そう、改革って一人じゃできないのです。だから改革が少しでも進んでいるPTAがあったら、恐らくそこには誰かが涙ぐましい戦いをしてくれた歴史が存在します。

 うちの息子の通う中学校については、コロナ前から先輩たちが頑張ってくれていた形跡がありました。地味だけど明らかな、格闘の痕跡。私もはっとさせられました。
 特に大きかったのは、コミュニケーションのデジタル化でしょうか。私が入った時には、完全にビジネス用チャットツールで連絡を取り合う体制が出来上がっていました。周囲の理解を得た上で導入したその先輩の努力に頭が下がります。

 お陰で私たちは、余計な会議を開く必要がありませんでした。実際に顔を合わせるのは最低限。集まるにしても、会議の終了時刻は決まっていますし、議題も事前に絞り込まれ、はっきりしています。結論が出る直前の段階まで、チャットツールであらかじめ持っていくことができるからです。

 このツールは一般企業と同じものを使っていて、私的利用のLINEなどとはきっちり分けられています。どこのPTAもお金がないのが普通ですが、工夫次第でビジネス用途のツールも無料で使えます。この方が個人情報を守るためにも良いし、一定のトピックを立てて話し合う機能があるなど、非常に便利です。ダラダラ会議に悩んでいる人がいたら、おすすめしたいです(笑)。

 もちろん、こうしたツールに全てを頼るわけにはいきません。リアルでやらなくてはならないことはまだまだ多いです。一部の人に負担が偏りがちな不公平感も、しっかり残っています。

 またデジタルは便利だけど、日々のアップデートに追いつくための勉強は必要で、メンテナンスも必要。役員や委員の全員がPCかスマホを持ち、ツールを使いこなせることが前提なので、できない人のフォローも大切。誰か一人は「テクニカルサポート」ができなくてはならないということです。
 みんな、普通の主婦なのに!

 PTAに関しては、本当にその仕事は必要なのか? という話もよく出てきます。
 必要なのもあるし、必要じゃないのもある、というのが私の感覚です。でもその線引きが難しい。

 見直すべきだという認識は皆が持っていますが、その見直しにも時間と手間がかかります。「誰か考えてよ」と皆が思っています(笑)。
 学校側は保護者の窓口として、あるいは行事の際のお手伝い要員としてPTAが必要だと感じていることが多いようですが(この考え方も厳密には間違いらしい)、ともするとPTAが学校に「おんぶに抱っこ」状態となり、「だったら教職員だけでやった方が早いんですけど?」になるケースもあるようです。
 つまり保護者にも教職員にも、PTAなんかいらないと考える人は一定数います。

 私はPTAは必要な組織だと思っていて、担い手不足だからといっていきなりシャッターを下ろして良いとは思っていません。子供たちの教育を学校に丸投げしていいわけがない。細かい例を挙げれば、例えば運動会などの行事の際、保護者に交じって盗撮に来る人がいるのですが(中学生女子の体操着姿の写真などはお金になるらしいです。盗撮者は男性とは限らず、若い女性などもいます)、教職員だけでパトロールが行き届かないのなら、保護者が協力するのは当然ではないでしょうか。

「その仕事が必要なのは分かっているけど、でも、PTAという組織がやらなくてもいいじゃない」
 という意見の人もいます。その人たちが一番引っかかっているのは、どうも「強制入会」の部分のよう。確かにボランティアは自発的にやるものですから、本人の意思に関わらず強制でというのはおかしいでしょう。
 だけど、誰かがやらなければならない仕事について「やりたい人が勝手にやればいいじゃない」という言い方はちょっと乱暴かなあと。また行事のたびに人を募る「エントリー制」という選択肢もありますが、これも学校側の負担を増やすので慎重にならざるを得ません。

 子供たちの学ぶ場は、みんなで支えるものじゃないかな~と思うのだけど。もしも「この仕事は明らかに余計だよね。子供たちのためになってないよね?」と思うのなら、現役員と一緒に変える努力をすべきだと思うのだけど。

 だけど、こういうことを言うだけで、多くの人の反感を買ってしまうのが今の時代。それだけのつらい事情を抱えている人がたくさんいるということでしょう。持病を抱えていたり、お仕事を一日休むことが生活の危機に直結してしまったり。そうした事情はなかなか人には話せないものなので、「どうしてあなたはできないの?」と追及するのもまた残酷な話です。

 なので私が今入っているPTAでは、まずは「任意入会」を堂々と言っています。役員や委員を引き受けるかどうかも、本人の意思をできるだけ尊重するスタイルです(もちろん断ってくる人が多いので、すごく大変です)。
 それでも、できる範囲でみんなが参加できる形を模索している、という感じです。これが今の過渡期のPTAなのかなという気がしています。

 一つ一つ、できるところから変えていくしかないでしょう。
 私も「やってらんねえ」と思うことはよくあるのですが(笑)、それでも実感として楽しいことの方が多いかな。前回の話のように人間関係の苦労は付きまといますが、それだけリアルの観察対象にたくさん出会えます。しかもバラエティーに富んでいます。小説の書き手さんには、特におすすめですよ(笑)。

 壁を何度も乗り越えた先に「やって良かった」と思える日がくる。
 そう信じて、頑張っているところです。
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