第15話 毎日の相棒

文字数 2,579文字

 お料理、好きですか?

 恥ずかしながら、私はあまり好きではありません。得意でもありません。

 長年主婦をやっているのに?
 そうです。情熱がないと、さほど上達しないものなんです。小説に向ける情熱の、10分の1でもこっちに振り向けられたらいいのに(笑)。

 しかし現実の私は、料理にかなりのエネルギーを割いています。一日の大半を台所で過ごします。
 夕飯の仕込みをするついでに、せっかく台所にいるのだからと、結局は子供のおやつも手作り、ジャムやヨーグルトも手作り……。どうしてもそうなっていきます。主婦をしている以上、その方が合理的であることが多いのです。

 我が家ならではの事情もあります。
 子供は少し大きくなりましたが、発達障害に関連した偏食があり、調理にはどうしても工夫が必要。
 亡くなったおじいちゃんが生きていた頃は、介護食を作ることも必要でした。今はレトルトの介護食も種類が豊富になっており、例えば「消化器系術後食」などという物もあるのですが、なかなかのお値段。毎回それに頼るわけにもいきません。

 というわけで、私は常に楽しんで料理をしてきたわけじゃないのですが、これだけは言えると思うのです。
 どうせやらなければならないのなら、楽しんでやった方がいい!
 これって毎日作る人も、たまに作る人も同じではないでしょうか。楽しい、ということはすべてのモチベーションにつながってきます。

 楽しいとは何か?

 プロセスだという人もいるでしょう。結果はどうでも良い、頑張ったかどうかが大事なんだという考え方もあるでしょう。

 でも料理の場合、仕上がった物がおいしいかどうかはものすごく重要な気がするのです。今日のご飯がおいしくできて初めて「料理って楽しい」と思えます。家族がほめてくれた場合はもちろんですが、一人で食べる時だってそれがおいしければ、明日も頑張ろうという気力につながります。
「味」という観点は、「健康」とか「節約」を差し置いて(いや、そっちも大事だけど)、最優先しても良いのではないでしょうか。

 前置きが長くなりましたが、私の十年来の相棒をご紹介します。
 WMF《ヴェーエムエフ》社の圧力鍋!



 この子がいてくれないと、私の日常は成り立ちません(笑)。

 だけど私の実家では、圧力鍋を使っていませんでした。実母は、圧力鍋の破裂の危険などから「怖い」というイメージを拭えなかったようです。

 なので圧力鍋の価値を教えてくれたのは、義母でした。義母にはいろいろな面で振り回された経緯があり(別のエッセイ『ハッピーエンドのその先に』でもちょっと触れています)、なかなか私は彼女の言うことを鵜呑みにできない、強情な嫁だったりするのですが、それでも圧力鍋というものを教えてくれたことには感謝しています。

 結婚後(何の相談もなく、一方的に)(安物の、オシャレじゃない)圧力鍋を贈られた時には私も内心反発しました。
 こんな面倒な物を押し付けてくるって、どういうつもり? 危ないし、かさばるし、メンテナンスもしなくちゃならないなんて。
 だいたい私はすでに自分好みのブランドのお鍋を買いそろえちゃったんですけど?

 というわけで、同じ目に遭った義姉は、すぐさま処分してしまったようです(笑)。
 だけどそれじゃ、良かれと思って買ってくれた義母が可哀想な気も。それに義母はかつて働きながら三人の子を育てた人です(もちろんその背景には、義父の献身的な協力があったのですが)。その義母が「料理の時短になる!」と言うならば、それなりの真実があろうかという気がしたんです。

 そこで私は付属のレシピ本に従い、一通りの料理を作ってみました。
 なるほど、なるほど。確かに「時短」と言って差し支えないと思いました。特に、塊肉や豆といった、数時間~時には数日かかる調理をする場合、30分程度で済む圧力鍋はなかなかの威力です。

 だけど今流行の、働くママさん向けの「超時短料理」と同じではありません。電子レンジで手軽に、という今時のやり方と違い、圧力鍋レシピはそれなりに「がっつり」系です。時間の節約も桁違いというわけにはいかないんですよね。

 また異常を感じたらすぐに火を止める必要があるので、加圧時間中は台所を離れて他の家事をするわけにもいきません。圧力鍋は必ずしも、忙しい人の味方だと言い切れないところがあるのです。

 それでも、私が驚いた点はここ。
「味」が違うのです。

 そう。圧力鍋で作った料理はおいしいのです! 特にご飯系の物がいい。圧をかけられたお米はもっちりと仕上がります。うるち米がもち米の食感に近づくのです。もち米はより「お餅」に近づきます。蒸して作ったおこわよりも、モチモチ(笑)。

 食感は個人の好みもあるでしょうが、私はお餅が大好きなのでハマりました。なので今も私は、ご飯を炊く時には基本的に圧力鍋を使っています。
 玄米、雑穀米の時もおいしさアップで威力を発揮してくれます。最近は夫婦そろって炭水化物を控えるようになりましたが、「少量」だからこそ味が重要だと思うようになりました。

 最近の高級炊飯器は、圧力をかけられる仕様になっていますね。これが出始めた時、実母がさっそく買い、炊いたご飯を食べさせてもらいましたが、確かにおいしいと感じました。やっと炊飯器が圧力鍋に追いついてきたな、という感じ(あー、素直じゃないな、私。笑)。

 だけどお手軽さでは、電化製品の圧勝ですよね。また炊飯に圧力鍋を使う時は、肉や魚の料理に使えないのがネックでした(つまり、普通のお鍋もフル回転で使っています)。
 これらの問題が解決するなら、炊飯器を買ってもいいかなと思ったのですが……、お値段を見てためらい、結局やめてしまいました。

 今でも我が家には炊飯器そのものがありません。電化製品は丸ごと経年劣化しますが、圧力鍋はパーツ交換(※シリコンパッキン等はどうしても劣化する)のみでさらに長く使えるので、コスパも良いのではないでしょうか。

 義母にもらった圧力鍋は、メーカーが倒産してしまったらしく、新しいパーツが入手できなくなって廃棄。安物だったようなので「まあいいか」で済みましたが、高額品を買う時は要注意ですね。

 そんなわけで、今の圧力鍋は二代目。毎日フル回転で働いてくれて、私の毎日に欠かせない相棒となっています。

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