第11話 ブックトークっていいよ『ハリスおばさんパリへ行く』

文字数 3,173文字

 子供がだんだん大きくなってくると、どんな本を勧めるべきか悩むもの。
 もちろん自分でどんどん読むタイプの子なら世話はないのですが、いつまでも「絵本、読んで~」な子も少なくありません。
 ええ、うちの息子も後者です(笑)。

 これも小学校の読み聞かせ会のこと。
 低学年クラスでのボランティアは、希望者が殺到して調整に難儀することもありました。なのに高学年クラスとなったら、やりたがる人は激減……一体どうして!?

 もちろん理由はすぐに分かりました。小さい子は素直に反応してくれて、読む方も楽しめるものですが、これが4年生以上になると急に難しくなってくるのです。

 同じクラスでもいわゆる「おませさん」が増えてきて、精神年齢が幼い子とのギャップが激しくなってきます。概ね、前者は女子で、後者は男子だったりします(笑)。
 絵本を選ぶ際、ターゲットをどちらかに絞らなければなりません。多くの場合、読み聞かせを素直に喜んでくれる「幼児系男子」を優先することになりますが、そうなると優等生(女子も男子もいる)を退屈させてしまいます。
 生意気な子は「つまんねー!」とか平気で言ってきます(笑)。
 そんなわけで、低学年のうちはやる気満々だったお母さんが、次第にフェードアウトしていくことも珍しくないんです。

 学校によっては、高学年は「やらない」という選択をしているようです。先生たちが国語や道徳の授業で一定の読み聞かせをしているので、それで十分ということなんでしょう。

 でもせっかく本に興味を持ち始めた子どもたちを突き放すようで、何だかもったいないじゃありませんか。それに、授業ではエンタメ性重視というわけにはいきません。本当に「教科書に載った」レベルの作品だけ読ませれば、それでいい?

 息子の通った小学校では、できれば高学年をやって欲しいという先生方の要望がありました。なので、私たちの学年には熱心なお母さんが多かったこともあり、仲間内で「何とかしよう!」という話になったのです。

 そこでやったのが「ブックトーク」。
 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、一つテーマを決めて、それに沿った内容の絵本や児童文学を紹介し、「興味を持った子は自分で読んでね」というものです。

 これなら読める子は自分で読むし、読めない子も「世の中にはどんな本があるのか」や、紹介者が面白いと思ったポイントを知ることができます。準備は絵本読み聞かせの時より大変になりますが(何しろ自分の言葉でその本を語らなければなりません。ここがハードルではあります)、幅広い子に対応できるのでおススメです。

 本好きな方は人前でしゃべるのが苦手、というタイプであることも多く、注目を浴びながらトークするなんて無理、となりがちなんですが、いやいや。本が嫌いな人はそもそも本を語れないんですよ! 本好きであればこそ、その愛を語る資格があります(笑)。
 そんなわけで、機会があったら、ぜひブックトークをやってみて欲しいです。

 さて児童文学でも、自分が「本気で感動した!」と言えるものとそうでないものがあります。また子供の頃に楽しんだものと、大人になってから理解できるようになったものが違うケースもあります。
 このエッセイで児童文学を取り上げる時は、今の私が「大人でも楽しめる」と感じた作品にしようと思っています。その作品のどこが感動ポイントなのか、一緒に考えて頂けるとうれしいです!

 今回は、ポール・ギャリコ『ハリスおばさんパリへ行く』。
 1960年代に出された本ですが、今読んでも新鮮です。シリーズ物の第一巻なんですが、パリ編が一番感動的。読むのはこの一冊だけでもいいと思います。
(※追記:私は「復刊ドットコム」版を読みましたが、講談社青い鳥文庫にもあるようです。こちらは著者名が「ガリコ」と表記されています)

 痛快なドタバタ・コメディー。
 ですが物語の舞台がパリのオートクチュール界ということもあり、十分な華やかさもあるんです。カッコいいモデルさんが登場するし、ちょっぴり恋愛要素もあるので、ファッションに興味のある女の子が大喜びしてくれます。

 あらすじは、こんな感じ。
 ロンドンで家政婦をしているハリスおばさん。普段は地味な暮らしをしていて、着る物にはこだわりません。おしゃれなんて程遠い、という感じの人です。

 でもある日、おばさんは男爵夫人の部屋でとんでもないものを見てしまいます。
 それはクリスチャン・ディオールのドレス!
 ああ、この世には何て美しいものが存在するのでしょう。

 生まれて初めて美に目覚めてしまったおばさんは、目玉が飛び出るほどの値段にも関わらず、ディオールのドレスを買うことを決意します。
「あんたには身の丈に合わないよ」
 そんな周囲の助言に、おばさんは聞く耳を持ちません。

 爪に火をともすように生活を切り詰め、ついに目標額を貯めたおばさんは、本当にパリへと向かいます。
 そしてこれ以上はないほど「ダサい」服のまま、一流ブランドのメゾンに殴り込みをかけていくのです!

 え~、ちょっと待ってよ、おばさん。いくら何でもその恰好はまずいでしょ……と読者に突っ込ませる構造になっているんですね(笑)。ここが楽しいのです。物語に大きなギャップを持たせるところが、ポール・ギャリコという作家の魅力なんでしょう。

 ハリスおばさんのドレスを買うための努力は滑稽なんだけど、彼女の善良さが伝わってくるからでしょう。この主人公、微笑ましくて憎めません。
 最初は冷たかったパリの人々も、次第におばさんに心を開いていきます。何とかおばさんがディオールのドレスを持ち帰れるよう、みんなが協力してくれる雰囲気になっていくのです。

 夢のような、パリの一週間。
 だけどおばさんが手にしたのは、ドレスではなくもっと大切な何かでした。ここにしみじみとした感動があって、読者が胸いっぱいになるところです。
 私も涙を拭いながら本を閉じることになりました。

 本当にこれ、子供の本なの? と思うほどのドラマティックさ。
 何しろ作品の舞台は50年代の、オートクチュール全盛期です。最先端のファッションの描写は華麗そのもの。トップモデルのナターシャと、ディオールの男性社員との恋愛にもドキドキさせられます。

 でもそれ以上に、人間ってこんなにも優しくなれるんだ、という所が物語のポイントになっているんです。読んでいて心が温まります。

 児童書なのに子供が出てこない、ある意味では不思議な作品。だけど子どもたちはしっかりハリスおばさんに感情移入して読むようです。
 それだけキュートなおばさんなんですよね。私もこんな風になりたいなあ~(笑)。

 読み聞かせ会でこの本を使った時は、まずは華やかなファッションの世界を説明する必要がありました。なのでこの本を紹介する前に「ファッションショーって知ってる?」と子供たちに問いかけ、パリ・コレ特集をしたファッション雑誌(図書館には良い物がなかったので自前)を見せました。

 モデルさんがキャットウォークを歩いてポーズを取り、下がっていくと同時に次のモデルさんが出てきて……といった流れも説明。
 その雑誌では、アルマーニの特集ページが特に見栄えのするものだったので、子どもたちはしっかりそこに反応しました。

 私「みんなは、かわいいシャネルと、カッコいいアルマーニと、どっちが好き?」
 子供たち「アルマーニ~!」
 私「おお、6年2組さんはアルマーニ派が多いみたいですね」

 だけど、ここで盛り上がってくれるのは女子のみ。男子はポカーンと口を開けていました(笑)。
 やっぱりブックトークでも、ある程度はターゲットの絞り込みを避けられないようです。
 ごめんね。男子向けの作品は、別の回で紹介します……って感じでした。
 
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