10、次の朝-2

文字数 928文字

 友彦は英里の涙に気づいた。
「ごめん! 英里、ごめんって」
 友彦は英里を押さえ込んでいた手を弛め、慌てて英里の目尻を拭った。
「英里……ごめん……」
「…………」
「英里、ごめん。泣くな。頼むから」
「うう……」
 自分が泣くと、友彦はどうしていいか困るだろう。止めないと。この涙を。
 こんなになっても、まだ友彦優先なのか自分は。
(バカだ、ホント)
 英里はまた唇をかむ。ひっくと咽が鳴った。
「英里ぃ……ごめんー、ごめんって。悪かったよ」
 友彦は英里を自分の胸に抱きよせた。英里は友彦の胸で何度かしゃくり上げた。この自分を泣かせた男は、友彦が初めてだ。
 英里が鼻をぐしゅと言わせたのを聞き、友彦は片手を伸ばしてティッシュペーパーを取り英里に渡した。英里は鼻をかみ、肩で大きく息を吸った。友彦は英里の頭を、背中をそっとさする。
「英里……ホントに俺を嫌いにならない?」
「友彦兄さん……」
 英里はティッシュペーパーで涙を拭った。友彦は英里をのぞき込んでいた。心配そうな黒い瞳が英里を見つめる。
 友彦は英里の返事を待っている。友彦の不安そうな鼓動が英里の胸に響いてきた。
「……ならないよ」
「本当だな」
「うん」
 友彦は英里を抱いた腕に、ギュッと力を入れた。
「よかったー!」
 苦しいほどに抱きしめられ、肋骨が折れそうだ。
「友兄……」
「英里、好きだ」
 英里は一瞬息を呑む。
「ずっとずっと好きだった」
「『ずっと』って」
 英里は苦しい息の中くすりと笑った。出会ってまだ一ヶ月なのに、随分おかしな言い方をする。
 だが――。
 列車がホームに入ってきて。
 窓越しに英里が友彦のことを「いいな」と思ったのと同じように。
 荷物片手にホームへ降り立った英里を、友彦は「見つけ」てくれたのだろう。
 見つけた。
 自分が探していたものだ。
 友彦の腕の中で、英里も友彦の背に腕を回した。そっと、その腕に力を入れる。
 友彦がごそごそと身じろぎした。
 硬いものが英里の腹を押していた。
「友兄……」
 英里が友彦を見上げると、友彦の顔が近付いてきて。
 友彦は英里の唇を吸った。熱い吐息を漏らしながら、覚えたての快楽を粘膜に探す。
 繰り返し、繰り返し夕べの続きを。
 腹が減ってどうしようもなくなるまでふたりは続けた。
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