10、次の朝-4

文字数 740文字

 ピザはおいしかった気がする。暢恵が「野菜も食え」と作った一品を、ふざけて友彦と押しつけ合ったが結局おいしくいただいた。結婚式の引き出ものを見せられたが、高校生男子が興味を惹かれるものじゃなかった。ピザの箱をたたんでつぶし、ふたりで少しの食器を洗う。叔父夫婦は「疲れた」と早々に寝室へ引き上げていった。
 友彦が慣れた手順でちゃっと洗い上げた食器を、英里は一枚一枚ふきんで拭いた。
 最後の一枚を拭き上げ顔を上げた英里に、友彦はチュッとキスをくれる。
 不意なことで、英里は思わず固まってしまう。固まったままの英里の手からふきんを取り上げ、いつものように友彦はそれを洗った。
 パンパンとしわを伸ばして友彦はふきんを干す。
「……もう、友彦兄さん」
「何」
「ビックリするじゃん」
 英里は熱い頬を手の甲で拭った。そんなことをしても、頬の熱さは変わらないのに。
「ん?」
 友彦は赤くなった英里をのぞきこみ、そっとその身体に腕を回す。
「ふふふ……英里、カワイイ」
 廊下を挟んで、夫婦の寝室はすぐ向かいだ。英里が大きな声を出せないのを知って、友彦はからかうように、嬉しそうに、英里の鼻先でまたチュッと音を立てる。
「……もう~~~~」
 何だ、この、照れくさい感じは。
 もしかして、これが幸せなんだろうか。
 胸の奥がギュッと焦げるように熱くなって、英里は背骨から力を抜いた。そのまま友彦の胸に重心をのせる。友彦は英里の身体を受け止め、ギュッと強く抱きしめた。
「もう寝よっか」
 友彦が英里の耳許でそうささやいた。
 友彦の胸に英里は言った。
「受験勉強は?」
「うん、昼間いっぱいしたし」
 いっぱいではなかったと思う。だが、英里ももうガマンできない。
 英里は友彦の胸を押し戻し、身体を離した。
「シャワー、してくる」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み