9、ふたり-5

文字数 1,649文字

 英里はしがみつく友彦の胸を押した。友彦は傷付いたような顔をした。英里は安心させるようにふっと笑った。友彦の表情が少し緩んだ。そうして英里は友彦の身を起こさせ、自分もベッドの上に膝立ちになった。
 頬を紅潮させたまま震える友彦の両頬を、英里は両手でそっとはさんだ。そうして英里が顔を近づけていくと、友彦はギュッと目を閉じた。
 英里は友彦の唇にチュッと優しいキスをした。
 友彦はその感触に驚いて目を開けた。英里はその瞳をじっとのぞき込んだ。友彦はもう目が離せない。上ずった呼吸が熱い。
 友彦の愛らしさに、英里はまたにこりと笑った。そして、友彦の唇に再び触れた。今度はもう離さない。友彦の頬を支えた両手をその首に回して逃げられないようにし、震える唇をとらえ、そしてぬるりとその内側へ舌を進めた。友彦は逆らわなかった。英里に誘われるままに口を開き、英里の舌を受け入れた友彦は、分からないながらもそれに応えようとした。必死なその動きが愛らしくて、英里はいじめるように舐め、甘噛みし、吸った。
 ふたりの咽から、堪えきれない声が漏れ出す頃、英里は友彦の昂ぶりを確かめた。押しつけた腰に、友彦もその腰を押しつけてくる。英里は友彦の舌を許してやり、離した唇を顎へ、咽へと這わせた。
 風呂上がりの友彦が身につけた部屋着を捲り上げ、露わになった腹を、胸を愛してやる。友彦は初めての感覚に、ビクリと震えてその腰を揺らした。英里はそうして友彦の体幹を舐めたり噛んだりしながら、片手でぐいと下を下ろした。
「ん……!」
 友彦は恥じらいに腰を引かせるが、英里はギュッと手で腰をとらえて逃がさない。
「友兄……勃ってる……」
 思わず英里が漏らした嘆息に、友彦の欲望はぶると揺れた。
「あ……英里……」
 羞恥にこれを隠したいのに、友彦はもうこれを押しとどめることができない。葛藤に揺れる欲望を、英里は大切に口に含んだ。
「あ……!」
 英里は持てる技能をすべて注いだ。札幌へ来るまでの狂乱はこのときのためだったかと英里は思った。友彦の感動が伝わるたびに自分も感動して胸が熱くなった。
 好きなひとを悦ばせることができるなんて、なんて幸福なことだろうか。 
 英里も感動に手加減を忘れた。友彦はすぐにそのときを迎えた。英里は優しくそれを受け止め、しばらくなだめていたが、脱力した友彦の腰が崩れた。グッタリとベッドに座り込む友彦を見て、英里はとても満足だった。友彦は自分を求めてくれた。好きだと気持ちを口にしてくれた。今まで言われたどれよりも嬉しい「好き」だった。目の前のこのひとは自分のものだと英里は思った。
 グッタリとしていた友彦は、やがて顔を上げた。
「英里……」
「ん?」
「好きだ」
「……うん」
 友彦は英里の手首をつかんだ。
「英里」
「友彦さん……」
 友彦は英里の腕を引き、ベッドの上に押し倒した。
「あ……あ……あ……」
 友彦は、さっき自分がされたように、英里の身体を愛し始めた。英里の咽に噛みつくようなキスをくれ、英里の白いシャツからのぞく鎖骨に歯を当て、焦る手つきでボタンを外した。英里の白い腹に噛みつくようにキスをしながら、友彦は英里のジーンズに手をかけた。友彦のキスにうっとりと溺れそうになっていた英里は、ハッと正気に戻される。
「待って!」
 英里は急いで友彦の手を握って止めた。
 友彦は英里の手を振り払って続けようとする。
 英里はベッドの端まで逃げた。
「英里……どうして……っ」
「ダメだよ……だって、僕」
「英里……」
 膝を抱えてガードする英里の背を、友彦はつかまえ熱っぽく撫でた。その感触に英里はピクリと反応してしまう。友彦の手は英里を有頂天にする。英里の抵抗が緩んだのを見てとるや、友彦は英里の腰を引き寄せた。英里は甘えるようにイヤイヤをした。
「英里、どうして……? 俺には触られたくない?」
 熱い呼吸で友彦は問うた。問いながら、答えを待ちながら、友彦は英里の口の端に、頬に、またキスをする。英里が答えるまでずっとキスを止めない積もりだ。
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