4、金属樹-3

文字数 655文字

 二週目ともなると、いかな方向音痴でも「道が分からない」は通じない。
 さて、どうしようか。
 HRが終わり、校舎がぶーんと騒音に充ちる。廊下をバタバタと多数の足音が行き交う。
「今日は永井さん、来ないの?」
 前の席から木下が振り返った。
「分かんない。……今朝何も言ってなかった」
 嘘をつく必要もない。英里は事実のままに話した。
「そっか。じゃあ今日は部活来るのかな」
 木下は思案顔だ。
「もう三年は引退してるんでしょ?」
 英里が不思議そうにそう訊くと、木下は「そうなんだけど」とうなずいた。
「ウチの部、代々OBがちょいちょい顔出すんだよね。やっぱ受験勉強ばっかじゃ飽きちゃうんだろうね」
「ふーん」
「永井さんも、週に一、二遍は来てるよ」
「そうなんだ」
 英里は教科書をカバンに詰めながら聞いていた。
 木下はいたずらっぽく笑って付け加えた。
「蓮見が来てから、めっきりご無沙汰だけどね。先週は蓮見を連れて、一回チラッと顔出したっきり」
「…………」
 木下はどういう意味で言っているのだろう。英里は木下の表情をうかがった。特に何かを当てこすっているようには見えない。
 英里は普通の表情を保つよう努力したが、できているかは分からなかった。
「試しに蓮見、俺と一緒に化学室行ってみないかい」
 木下は化学部に英里を勧誘したいだけなのかも。
 英里は何でもないふりをして答えた。
「いいけど。僕は化学部には入らないよ」
「分かってる」
 木下はすっくと立ち上がった。
「先週仕込んだ金属樹が、いい感じに育ってると思うんだ。キレイだからさ、見に来いよ」
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