10、次の朝-3

文字数 870文字

 睦男と暢恵は予定通り日曜の午後に帰ってきた。
「おみやげー、はい!」
 暢恵は玄関まで迎えに出た英里の手に、何やら百貨店の手提げ袋を手渡した。
「あ……ありがとうございます」
「開けてみて開けてみて」
 そう言いながら、バタバタと暢恵は旅行カバンを持って夫婦の寝室へ入っていった。
「おう、おかえり」
「ああ、ただいま」
 遅れて出てきた友彦に、ゆっくり靴を脱いでいた睦男が答えた。睦男は重ねてふたりに尋ねた。
「ふたりとも、ご飯ちゃんと食べてたかい? カレーはなくなった?」
「いただきました。おいしかったです」
「まだ少し残ってるぞ。四人で食べるには足りないけど」
「そうか」
 上がりかまちに並ぶふたりに、睦男は穏やかに笑顔を向ける。
「じゃ、今晩は何を食べようか。当番は誰だったかな」
 奥から暢恵の声がした。
「わたしよー! 疲れちゃったから、今日は何か出前でも取ろっか」
 睦男とふたりは顔を見合わせる。
「だ、そうだよ。何が食べたい?」
「ピザ!」
 友彦は即答した。
「英里は?」
「いいね、ピザ」
 睦男はニコニコとうなずいた。
「暢ちゃん、子供たちはピザ食べたいってさ。暢ちゃんはどうする? 一緒にピザでいいかい?」
 そう声をかけながら、睦男も自分の荷物を持って寝室へ入っていった。持ち歩いた荷物を片付けるところまでが、旅だ。
「やった。ピザ」
 友彦は嬉しそうに英里を見た。
 英里は友彦の尻をかるくつねる真似をした。
「ダメだよ。もっと離れてないと」
「え?」
「くっつきすぎ!」
 小声で英里がそう注意すると、友彦はあっけらかんとこう言った。
「そうかあ? 前からこんなもんだろ」
「そうかもだけど」
 英里はエヘンと咳払いした。
「……バレちゃうよ」
 友彦はいたずらっぽく首を捻る。
「『何』が?」
「何って」
 英里はそこで言葉を切った。
 友彦が、楽しそうに英里の言葉を待っている。
「…………」
 面白がられている。悔しい。
 友彦は「ん?」と英里を促した。
 英里はぷいと後ろを向いた。
「知らない!」
 そのままズンズンと居間へ入っていく英里の背後で、友彦が嬉しそうにクスクスと笑っていた。
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