第29話

文字数 720文字

少子化で子どもが貴重になっているから一人の子どもにかける費用は上がっているとも聞く。コマーシャルでやっているように、写真館でのシチュエーション撮影なども、芽衣里が子どもだった頃にはなかった風習であり、時代を象徴しているのだろう。

「価値観はさまざまだからね」

世の中の大勢がしていることイコール愛情表現と言えるわけではないだろう。そこを芽衣里はなるみにわかって欲しかった。

「加えて、ウチの両親もあんまりなんだよね。お兄ちゃんに付きっ切りっていうか。あっちが大変なのは重々承知はしているけどさ...」

なるみの実家は地元で工務店をしている。小さいが、腕の良い職人を揃えていると評判で、仕事は切れ目なく来ているそうだ。なるみの兄は後継者として、今では社長であるなるみの父の右腕として腕を振るっていると聞く。また三人の子どもにも恵まれ、みな男の子ということもあり、さらに近居もしていることから、なるみの母は兄一家に毎日のように出入りしているという。

「なるみのおばさんはよくウチの母に望菜実自慢してるよ。ウチは私がこんなだから、母が羨ましがってた」

それは事実である。今に始まったことではなく、中学ぐらいからなるみの母と芽衣里の母が顔を合わせればなるみの自慢を吹聴されてきたものである。

「ねえ、芽衣里はどうしてそんなに強いの?私には理解できないよ...」

何を言いだしているのか。芽衣里は自分が強いだなんて思ったことはない。ただ面倒には巻き込まれないように生きているだけだ。

「芽衣里はいつもどんな時も自分の道を進んでいて、世間体とか全然気にしないで。それでいて優しくて。どうしたらそんな風に生きられるのか知りたいよ...」

鬼気迫る表情でなるみは芽衣里を見た。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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