第9話

文字数 681文字

「ここまでざっとではありますが、説明してきました。わかりにくいこととかなかったですか?」

「いえ、特には...」

「そうですか。では次の話に移りますがよろしいですか?」

またA4用紙が一枚配られた。先程のとは違い、白紙が多い。

「この紙には三つの質問があります。これから一年でその質問に対する答えを熟考して埋めてください。1年後、ここにもしいらっしゃるのであれば、我々が審査をし、その上で診療を受けるに値するとの判断がくだれば診療を行います」

紙には、『・なぜ今死にたいのか、・自分の死は周囲にどう映ると考えるか、・次に生まれるとしたらどうなりたいか』を問う質問が記載されている。

「今日のお話は以上です。ではご対応していただいて、もしすべてのご準備が整えられるのであれば、1年後の今日、午後3時にまたここへいらしてください」

吉田はきおつけの姿勢をして、そう言った。

「あの、一個訊いてもいいですか」

「はい、どうぞ」

「全部こなさないと対応してもらえないんだったら、その前に自分でどっかに行って自殺しちゃう人とかいませんか」

あー、それね、と吉田は苦笑した。

「私たちはその方が予約日に来なくてもその理由までは追ってませんから、もしかしたらそういう方がいる可能性もあります。でも院長の予想では大方の場合、それはないんじゃないか、ということです。というのも、ここにいらっしゃって、こんな説明を聞いちゃうと、なかなかそう無責任な行動は取れなくなるものだから、って」

そんなに単純なものだろうか。

一抹の疑問を抱きながらも、芽衣里は吉田と議論をする気などない。診療費を支払い、病院を後にした。
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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