第13話

文字数 953文字

五階に住むなるみの部屋はからは、近隣の高層マンションが目の前に、階下には駅前広場と線路が見える。祖父母の代に建てた木造の平屋住宅にしか住んだことのない芽衣里からすると、まるで未来の家そのものだ。だが、当のなるみからすると、五階なんてこういう高層マンションでは負け組、高層階に住んでるほど勝ち組なんだから、と言う。

地元の商店街にある和菓子屋のモナカを手土産として芽衣里はなるみに渡した。なるみが小さい頃に好きだったお菓子だ。懐かしい、となるみは喜んだ。

名の知らぬ惣菜を皿に盛り付け、望菜実をバウンサーに乗せ、食い初めが始まった。といっても儀式は数分で終わり、望菜実が眠ったタイミングから二人のおしゃべりタイムと化した。

話は終始なるみの愚痴だった。

なるみの住むマンションでは、空前のベビーラッシュが起きており、赤ん坊を連れて歩いていると、必ず誰かに声をかけられるのだという。最初は何の気なしに受け答えしていたが、やがて何度か顔を合わせているうちに連絡先の交換を要望された。なるみは疑うことなく教えてしまったが、これが地獄の始まりであった。マンション内のママ友会(もちろん非公式組織)へと自動加入させられ、面倒な付き合いに巻き込まれてしまったのだ。

「そーんなに嫌ならシカトすればいいじゃん」

人付き合いの煩わしさが大嫌いな芽衣里は簡単にそう口走った。

「そんなわけにもいかないの。エレベーターとか駐車場とかスーパーで顔合わせることもしょっちゅうだし、この子の小児科も一緒だったりするの。しかもここは分譲でまだローンもたくさん残ってる。だから動けないんだよね。となると幼稚園や小学校にも行かせるわけだから、ずっと付き合い続くわけで、無下にしたらこの子の居心地にも関わってくるかもしれないし...」

はあ、と芽衣里の方がため息をついてしまった。確かに新聞やネット記事でもママ友を巡る人間関係のトラブルは目にしたことはある。その度に芽衣里は、だったら子どもなんか持たなければいいのに、と思っていたものだ。

「その付き合いでなるみにとって我慢ならないな、と思うことはどんなことなわけ?」

「ボスママ的な人がいるんだよね。それとその取り巻きが。そのボスママの提案とか意見は絶対でさ。そこから逸脱してると、見下される、というか...」
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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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