第39話

文字数 779文字

すぐさま右手に握っていた紙コップを口に持っていき、水で薬を流し込む。

これでいい。これでいいんだ。

一瞬の躊躇いも嘘のように心は晴れ晴れとしていた。

夏の陽は長い。夕方だが、まだ傾いてもいない。

これでこの世界の見納めだ。

窓の外に見える青空と木々を目に焼き付け、芽衣里はベッドに横たわった。

言われた通り、徐々に眠気が襲ってきた。

これでいい。このまま眠るように逝った方が幸せに違いない。

そう思い瞳を閉じた。

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「芽衣里はどうしてそんなに強いの?」

「あのね、望菜実の初節句、今年はやらずじまいだったから、来年やろうと思うの。それとね、まだ早いけど七五三のお祝いもしたいなって...」

「ボスママ的な人がいるんだよね。それとその取り巻きが。そのボスママの提案とか意見は絶対でさ。そこから逸脱してると、見下される、というか...」

「私、仕事も辞めてるし、ずっとこうやって下に見られて行きてくのかな、って不安になっちゃう...」

「芽衣里はいつもどんな時も自分の道を進んでいて、世間体とか全然気にしないで。それでいて優しくて。どうしたらそんな風に生きられるのか知りたいよ...」

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まどろんでいく芽衣里の脳裏に、張り詰めたなるみの表情が現れる。どこまで行ってもなるみは追いかけてくる。脳内になるみの顔が、声が、充満した。それだけでなく、望菜実まで登場し出した。

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登場人物紹介

大野芽衣里、37歳。

特技、趣味、欲なしで生きてきたフリーター。

坂月なるみ、37歳。

芽衣里の中学時代の友人。

長年不妊治療をし、やっと出産を果たす。

坂月望菜実、0歳。

なるみの娘。

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